7-本の紹介

【書評】タモリと戦後ニッポン(近藤正高)

タモリに関する本はいくつか出ていて(※参照)、本書もそのうちの一冊である。cakesの連載がベースになっているらしい。

タモリと戦後ニッポン (講談社現代新書)
近藤 正高
講談社
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類書の中で本書が特異なのは、タイトルにもあるように彼の歩みと戦後日本の歩みを重ねあわせてみたところだろう。その試みから何が見えてくるだろうか。

外側を知るもの

冒頭では1972年という年に、ビートたけしや笑福亭鶴瓶、そしてタモリといった芸人が、若くしてテレビやラジオで活躍し始める話が置かれている。ポイントは、そうした芸人たちが、従来の芸人たちとは違うルートを歩んできたことだろう。間違いなく、そうした新しい芸人たちはこれまでと違った風景を見ていたに違いない。

そして、新しいものを生み出していくのは、常に違った風景を見てきたものたちだ。

ここで戦後の日本が頭に浮かぶ。日本という国は、戦前と戦後で大きな変化を経ている。その両方の期間を体験している人間は、「戦後の日本」がある様相の一つでしかないことを理解しているだろう。しかし、戦後しか知らない世代は、相対化の対象を持たないので戦後の日本=日本となってしまう。

終戦直後に生まれたタモリは、直接その期間を体験したことはなくても、その期間を体験した人と直接交流はしていただろう。たとえば両親だ。さらに、彼はその両親から満州の話も聞かされていたという。そうした話も、やはり日本を相対化するのに役立つだろう。

だからこそ、彼は多くのものに縛られなかったに違いない。外側から見つめる視点は、いつだって因習の鎖を引き裂くカッターとなる。

マスに位置すること

もちろん、こうした意味づけすらタモリは嫌うだろう。だから、ここではそれを掘り下げない。

もっと単純に、戦後日本の歩みとタモリを重ねあわせてみる。すると、テレビという点はやはり外せないだろう。本書では、タモリがテレビに出るまでの歴史も紐解いていて、それはそれで一つの日本史としても楽しめるのだが、やはりメディアに乗ったタモリこそが、タモリの中心であるはずだ。そこを外すわけにはいかない。

戦後日本の、とくに1980年以降の日本にとって、テレビというメディアは常に生活の中心に位置してきた。私は生まれたときからテレビがあったし、テレビがない生活というのを___自分がテレビを持っていないではなく、他の誰もテレビを持っていないということだ__想像することはできない。メディア的に言えば、そこには戦前と戦後ぐらいの隔絶があるように感じる。

テレビという中央ネットワーク的なメディアは、一億層中流という幻想と、それによって生まれる画一的な大量消費に貢献してきた。ネットの力がさんざん騒がれる現代ですら、テレビの伝播力は圧倒的である。ネットがない時代であれば、それはいかほどであっただろうか。

極言してしまえば、テレビが日本の文化的傾向を形作ってきた。もちろん、それはあまりに極端に言いすぎているだろう。他にもメディアはあったし、それらも世論を形成してきたことは疑いない。ただ、消費という観点に絞れば、テレビこそが王様だったに違いない。

皮肉に感じるのは、巨大なものが一つの方向性を決めてしまうという機構を、タモリはあまり快く思っていなかったのではないか、ということだ。外部の視点を持つ者は、そうした巨大な存在の危うさを感じ取るはずである。しかし、タモリはテレビの顔であった。そこに何かのいびつさはないだろうか。

あるいはだからこそ、彼は常にゆるくあろうとしていたのかもしれない。それが彼なりのバランスの取り方だったのかもしれない。

さいごに

少し前から、タモリの趣味的な側面がテレビでもフォーカスされるようになっている。そうしたものは『タモリ倶楽部』的な深夜の__つまり、隠すような__ノリではなく、ごく普通に提示されている。

それはサブカル的なものが一定の市民権を得てきたことの表れなのかもしれないし、あるいは、「自分らしい生き方をしたい」というライフスタイルを、大きな資本構造が取り込もうとしている表れなのかもしれない。どちらにせよ、まだまだテレビというメディアは死なないだろう。

ただ、本書に面白い指摘がある。現代でタモリが再評価されている点にYoutubeやWikipediaといったネットメディアが貢献しているというのだ。たしかにテレビをみているだけでは、デビュー当時のタモリの姿はうまく想像できないだろう。(著作権的な問題はとりあえず横に置くとして)過去の映像が「発掘」されることは、現在への評価にも影響を与える。

その意味で、テレビVSネットという対立軸は(著作権的な問題はとりあえず横に置くとして)、あまりに単純な見方と言えるだろう。現状はそれぞれが補完的に機能しながら私たちの文化を形成している。そのことは忘れないでおきたい。

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