7-本の紹介

【書評】代替医療解剖(サイモン・シン エツァート・エルンスト)

現代では、科学技術は驚くほど進歩しています。医療技術も同様に、驚くほど進歩しています。

しかしながら、怪しい科学の話がいつまでたっても消えないように、怪しい医療の話も消えてなくなりません。実に残念なことです。

一つには、病気にかかっている人が肉体的にだけでなく精神的にも弱っている点があるのでしょう。おぼれる人は藁をも掴むと言いますが、思考がクールなモードではなくホットなモードになっていると、理論的に考えるとちょっとおかしいよね、というものでもそれなりに説得力があるように感じてしまうものです。

もう一つには、私たちが元々治癒力と呼びうるものを持っている点も関係してきます。たとえば、私が風邪を引いたとしましょう。そして、「風邪が治るまで毎日」コーラを飲み続けたとします。すると、あたかもコーラが風邪を治したように感じますが、実際はまったく関係ありません。

ただし、ひとりの人間の人生には、比較する対象がないので、そこにあるのは「病気が治った」という事実だけです。そんなときに「ほら、コーラが効きましたよね」と言われれば、「なるほど、そういうものか」と納得してしまうこともあるでしょう。

またやっかいなことに、プラシーボ効果と呼ばれるものもあります。「これが頭痛薬ですよ」と白衣のお医者さんから小麦粉を渡されて飲むと、頭痛が和らいだりするのです。

そういうのが「成功例」となり、宣伝の材料となって、病気になっている人のホットなモードをさらに加熱します。加えてあやしい医療は、厳しい検査を経ていないので、ある意味で低コストです。すごく儲かるわけですね。ということは宣伝をばんばん打てるわけで、それがまたホットなモードを加熱して……、というように、成長していく余地はいっぱいあるわけです。

そのように考えてみると、世間で一定の効果が認められていたり、あるいは「成功例」がいたとしても、「それって本当なのかな?」と疑ってみる姿勢は必要でしょう。

そして、私たちの代わりにさまざまな「代替医療」を検証してくれているのが本書です。

代替医療解剖 (新潮文庫)
サイモン シン エツァート エルンスト
新潮社 (2013-08-28)
売り上げランキング: 6,455

代替医療の問題は、それが欺瞞的取引(ようするに詐欺)であるだけでなく、本当に効果がある医療を受ける機会を剥奪してしまうところにあります。これは金銭には換えられないので、非常に重要な問題です。私たち自身が、きちんと向き合っていかなければいけません。

本書は、ある意味では「代替医療」__主流派の医師の大半が受け入れていない治療法__への攻撃であり、「代替医療」を行っている人からは大きな反発もあることでしょう。しかし、本書を丁寧に読み込んでいけば、データがきっちりと使われており、いつでも反論を受けつける姿勢であることがわかります。感情的あるいはイデオロギー的な論説ではないのです。

「データを見る限り、〜〜の効果は現時点では認められない」という姿勢なので、もし別のきちんとしたデータが出てきたのならば、著者らは意見を改めることでしょう。そういうやりとりこそが「科学的」な態度です。

本書は全六章の章立てで、第二〜五章が具体的な「代替医療」の解剖となっていますが、とりあえず目を通しておきたいのは第一章です。「いかにして真実を突き止めるのか」と題されたこの章では、≪科学的根拠にもとづく医療≫とはどのようなものかが、丁寧に解説されています。おそらくここを読むだけでも、怪しい医療から距離を置くことができるようになるでしょう。少なくともそうした情報との向き合い方はわかるはずです。

情報が自由気ままに飛び交うこの社会では、それだけでも十分に価値があることです。

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