7-本の紹介

【書評】小説家という職業(森博嗣)

「どうしたら小説家になれますか?」

という問いを、メタ的に却下しているのが本書である。

小説家という職業 (集英社新書)
森 博嗣
集英社
売り上げランキング: 19,518

最近発売された村上春樹さんによる『職業としての小説家』に似たタイトルであるが、内容にも似通ったところがある。その辺の類似性についてはまた別の記事でまとめてみよう。

本書の章立ては以下の通り。

  • 1章 小説家になった経緯と戦略
  • 2章 小説家になったあとの心構え
  • 3章 出版界の問題と将来
  • 4章 創作というビジネスの展望
  • 5章 小説執筆のディテール

とにもかくにも、冷静というか現実的な視点である。出版業界にいる人には、カチンと来る内容も含まれているとは思うのだが、私自身には頷ける話が多い。とは言え、著者のようになりたいかと言えばNoである。というか、「これはとてもじゃないが真似できないな」と思える話が多い。1時間で6000字書ける? すごすぎて嫉妬心すら湧いてこない。

それはそれとして、著者はその才能だけで売れたわけではない。その点ははっきりしている。わかりやすい言葉を使えば「戦略」を持って執筆活動を行っている。別の言い方をすれば作家としての展望をきちんと描いている。その辺が作家としての強さであろうし、村上春樹さんとの共通点の一つでもある。


本書で一番印象的だったのは、「一冊目の出版」に関するエピソードだ。編集長が「まだできてもいない4作目」を最初に出版すると決めたくだりは、ほとんど小説的なノリと言っていい。背筋がピリピリした。まさに事実は小説よりも奇なりである。

そうして出てきたのが『すべてがFになる』なのだから、編集長の判断はおそろしいほどに適切だったと言わざるを得ない。慧眼とはこういうことを言うのだろう。また度胸も賞賛に値する。

おそらくそうしたものは、まだアルゴリズムが持ち得ない力であり、「編集」という役割を人間が担う理由でもあるのだろう。


さて、「どうしたら小説家になれますか?」という問いに戻るわけだが、これはもう本書に書かれている通りとしか言えない。

「こんなものを読んでいる暇があったら、小説を書こう」

その通りだ。少なくとも、漠然とした問いを自分の人生に何のコミットも持ってくれない人に投げている暇があったら、現実的な行動を取った方がいい。「ともかく小説を書く」というのは、その中でも一番取りやすい行動なはずである。だって、小説家になりたいのだから。

本書は2010年に出版されているが、そこから5年ほど進んだ現在では、このアドバイスはより切実性を持っている。小説家への門戸は広く広く開かれた。「新人賞」への応募だけではなく、「小説家になろう」といったオンライン小説サイトもあるし、気が向けば自分でWebサイトを持ってもいい。いきなりセルフ・パブリッシングに取りかかる手もあるだろう。

もちろん、それでうまくいくかはわからない。でも、漠然と頭で考えているよりは一歩でも二歩でも前に進むはずだ。何のアクションも起こしていないのに、突然編集長から「本を書いてみませんか?」という電話がかかってくることはないわけで(詐欺と思った方がいい)、自分から動き出すしかない。

最後になるが、小説家という職業はどうにも天の邪鬼な気質の人の方が向いているようである。というか、天の邪鬼な人に与えられた最後の居場所なのかもしれない。天の邪鬼な私としては複雑な気分である。

▼こんな一冊も:

すべてがFになる THE PERFECT INSIDER S&M
講談社 (2012-09-28)
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職業としての小説家 (Switch library)
村上春樹
スイッチパブリッシング (2015-09-10)
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