物書き生活と道具箱

『職業としての小説家』と『小説家という職業』からみる二人の共通点

村上春樹さんの『職業としての小説家』と、

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森博嗣さんの『小説家という職業』を読みました。

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どちらも小説家が、自身について語った本です。

お二人は、まったく違った作品を生み出す作家なわけではありますが、不思議なほど共通点がありました。今回は、それについて書いてみます。たぶん、何かの役には立つことでしょう。

ひょっこり誕生

私が一番興味深く感じた共通点は、お二人とも「小説家を目指して」いたわけではない、というところ。

村上さんも森さんも、小説家を目指してコツコツ努力し、さまざまな苦難を乗り越えてから、ようやく新人賞を取ってデビューした、みたいな経路は辿っておられません。ある日突然、「そうだ、小説を書こう」と思い、小説を書き、それが新人賞獲得なり編集者の目にとまるなりした、という歴史をお持ちのようです。

おそらく、その歴史はお二人の作家としてのスタンスにも強い影響を与えているとは思いますが、それはまた後ほど触れましょう。

この時点で、彼らが「小説家になりたいんですが、どうしたらいいでしょう?」と質問されると困ることは確定しています。だって、彼らは小説家を目指して生きてきたわけではないのですから。

また面白いことに、お二人とも「自分は小説が書ける」ということに小石ほどの疑問も持っていなかったようです。どちらも、書けるかどうか悩んだけど、苦渋の決断でえいやっと筆を執った、みたいなエピソードは一切ありません。書こうと思い、書いた。それだけです。書き悩む人からすると、すごい自信家に思えます。

それは、彼らの傲慢さを示しているのでしょうか。それとも、そうした自信を醸造するようなバックグラウンドがあったことを示しているのでしょうか。村上さんはよく本を読まれていたようですが、森さんはあまり多読ではないと何度も書かれています。その代わり、じっくりと本を読むタイプのようです。もしかしたら、そうした読書経験が「自分には小説が書ける」という自信を醸造した可能性はあります。

あるいはお二人とも、小説家とはまったく関係ないお仕事を長年経験されてきたので、そうした人生経験が小説執筆をも裏書きしたのかもしれません。この辺りの判断は難しいところですが、一つ言えるのは「自分には小説が書けるかどうか」という悩みは、小説を書くことにはほとんど益はないということでしょう。なにしろ、小説家という職業は「自分には小説が書けるかどうか」を悩む仕事ではないわけですから。

アウトサイダー

お二人とも、作家にあこがれて小説家になったわけではありません。たぶんそれは、文壇というものの中心からは少し離れた辺境の地にいたと表現することもできるでしょう。

『戦後ニッポンとタモリ』という本では、ビートたけしや笑福亭鶴瓶、そしてタモリといった芸人が、それまでの芸人誕生のルートとは別のところから生まれたことが指摘されています。そうした出自の違いは、経験の違いとなって表れ、さらに芸の創造の違いにまで影響を及ぼし、結果的に芸人としての個性を育んでいったのでしょう。

同じように、村上さんも森さんも「これまでの小説環境」からは自由な立場から執筆活動を行っておられるように感じます。それは、もともと誰かにあこがれて小説家になったわけではないからなのでしょう。結果、小説のスタイル、出版社との付き合い、そして読者との関係性といったものが、他の作家と比べていささか特異に感じられます。これまでの出版業界、あるいは小説家の型からは外れている印象を受けるのです。

お二人とも一つの出版社にべったりということはありませんし、村上さんは自身で海外展開も模索されていました。それは、自分という存在を出版社あるいは出版業界に付属するものとして捉えているのではなく、ひとりの独立した主体として認知されているからでしょう。従業員ではなく、社長ということです。であれば、愚痴をこぼしている暇などなく、自分で考えて動くしかありません。

おそらくそれと関係しているのでしょうが、お二人とも読者との交流を大切にされています。村上さんは期間限定で、読者とのメールのやりとりをされていますし、森さんも一時期は来たメールにすべて返信していたそうです。これは、「作家としてのお客さんは誰なのか?」という視点を雄弁に表す行為です。言うまでもありません。彼らは読者を向いて本を書いているのです。

戦略と展望

お二人は、作家としての長期的な展望をお持ちでもありました。言い換えれば、出版社に言われた通りに原稿を書く、というスタンスではなかったわけです。自分が社長なのだから当然でしょう。

村上さんは、作品ごとにチャレンジを行い、作家としての引き出しを少しずつ増やしていったと書かれています。より大きく、より複雑で、より深い作品を書くために、自分の文体を鍛えていったわけです。

森さんはそんなにマッチョではありませんが、それでも「一冊目に全力を出すと、後は落ちていくだけになる。だから、面白さを少しずつ小出しにしていこう」という戦略を持って、初期の小説を書き続けておられたそうです。

現実には4冊目に当たる本が処女作となるという計算違いがあったにせよ、作家として生きていくには、読者に一冊本を買ってもらうだけでは十分ではなく、何冊も読んでもらわなければいけないという視点は、その後の執筆活動でも活かされていたことでしょう。

さいごに

他にも共通点はいくつかあります。

人の話を聞くことや観察することを重要視したり、プロットは立てずに書いたり、読み直しに力点を置いたりといったことです。あと、「今これが売れているそうだから、自分もやってみよう」みたいなスタンスを取らなかったり、ということもあります。なかなか面白いですね。

人気の作家二人が共通している点なのですから、ぜひとも真似したいところですが、たぶん別の人気の作家はまったく逆のことを言っていることもあるでしょうから、まあほどほどに、ということで。

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