Rashita’s Christmas Story 7

ある存在があった。その存在は有史を眺めていた。

ちょっとした実験と同じだ。惑星の環境にちょっとだけ変化を与える。そして、その後のなりゆきを見守る。何が出てくるだろうか。

新しい生物種が誕生し、それが地表を覆い始めるのにそれほど時間はかからなかった。その生物種は、どうやら他とは何か違う特徴を持っているようだ。実に観察のしがいがある。

表面的に見れば、それは火を扱う技術であり、刻まれる言葉だった。それが彼らに固有の力を与えていた。その力を土台にして、より大きな力を獲得する。そんなプロセスが繰り返されていた。無作為な突然変異による適者生存とは、大きく異なる戦略だ。観察者はそのことに驚いた。その生物種はランダムには生きていない。意志があるのだ。

ただしその意志自体は、強固たる信念とは異なるようだった。非常によく揺れる、曖昧模糊としたものだ。なんとその生物種は、その意志自体を認知し、名前を与えていた。すなわち感情、と。

感情という機能は、実に興味深いものだった。揺れ幅が非常に大きい。まっすぐ進んでいるように見えて、いつでもふらふら動いている。そのことが、静的なアルゴリズムと突然変異による進化の両方の効果を実現していた。危うい賭けではあるが、面白いものが出てくる可能性がいつでも残る。

有史を眺めるその存在は、無邪気な実験者の心で一つの装置を作り出した。生物種の言語フォーマットに倣えば「概念具現化装置」と呼べるだろう。何かしらの概念が多勢に共有され、名前が付き、そこにたくさんの感情が集まるとき、その概念を具現化させ、実体を与える。そんな装置だ。

観察者は、その装置で感情の真価を見極めてみたかった。それが何をもたらすのか知りたかった。だが、観察者はそこで姿を消してしまった。そして、戻ってくることはなかった。なぜかはわからない。ただ、その生物種と装置だけがそこには残った。

主をなくした装置は、それでも機械的にその役割をこなした。生物種を監視し、感情の行き来を見守った。そして、いくつかの概念を具現化した。ただし、数はあまり多くない。おそらく多勢に概念が共有されることが稀なのだろう。すでに彼らはいくつかの異なる言葉で世界を分断し、概念の共有に壁を設けていた。

もしかしたら、それで良かったのかもしれない。その装置から生まれてきたものは、数は少なかったものの、とんでもないものばかりだった。飛び抜けていたのは、全知全能の存在だ。そんなものが多勢に共有され、あまつさえ存在を願われるとは観察者は想像すらしなかっただろう。もし想像していたら、こんな装置など作らなかったに違いない。数度、この実験そのものが終わりかけたのだから。

比較的無害なもので言えば、一定の周期で幼少期の生物種に贈り物を配る存在があった。時空間の制約をまったく無視し、エネルギーの保存則すらあざ笑うかのようなその存在は、なぜか生物種の多くに受け入れられていた。そして、それは具現化された。

生物種の概念を適切に満たすため、装置は星中にそれを具現化させた。一つや二つではまるで足りない。星々の系ほどの数が必要だった。莫大なエネルギーを要したが、それは共有された感情の変換から得られた。それほどのエネルギーが充填されることは、もうないだろう。それくらい生物種たちは分断されていた。

当初は、うまく機能していた。贈り物はきちんと配られていた。しかし、それが長く続くことはなかった。生物種同士の諍いが頻繁に発生するようになったのだ。分断が諍いを呼んだのか、諍いが分断を招いたのかはわからない。ともかく、個体数が大きく目減りする状況が何度か発生した。

そんなとき、幼少期の生物種たちは、こんな風に願うらしい。「家族が欲しい」と。その願いを叶えるため、贈り物を配るだけの存在は、自身を実体化させているエネルギーのすべてを使い、その生物種へと姿を変えた。自分自身を贈り物とするのだ。

そのようにして、装置が生み出した贈り物を配る存在は、星中から少しずつ姿を消していった。一体ずつ、自らを贈り物へと変じさせていった。最後の一体が消え去ると、その星に物理法則を超越するような存在はいなくなった。

それでも装置は観測していた。生物種の感情の行き来は、依然とまったく変わりがないことを。むしろ、以前よりも活発になっていることを。

メリークリスマス!

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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