物書き生活と道具箱

「ソロの個人出版」という言葉からいろいろ考えてみた

少し前、とある原稿を書いていたとき、ふと「ソロの個人出版」という言葉がエディタの上に表示されました。まあ、私が自分でタイプしたわけです。

なんとなく、重複表現かなとも思い、「個人出版」に改めようかと推敲して、結局そのままにしておきました。2016年では「ソロの個人出版」という言葉は十分にあり得るように感じたのです。

それと共に、「個人出版」を表現する言葉の難しさなんかも浮かび上がってきました。

どう言う?

おそらくは、「セルフ・パブリッシング」という言葉が先にあったのでしょう。その翻訳として「個人出版」あるいは「自己出版」という言葉が使われ始めました。この二つの言葉は、明確に「自費出版」との差異が強調されています。つまり、そんなにお金がかかるものではありません(=ダマされないように)というメッセージがそこにはあるわけです。

しかし、「セルフ・パブリッシング」にはそういうメッセージは特にありません。単に、これまで主流だった出版社を中心とした出版ではなく、個人が主体となって行う出版ぐらいのニュアンスでしょう。

で、それはそれで良いのですが、「個人が主体となって行う」ことと「個人しかプレイヤーがいない」は近しいようでいて、実際は異なるものです。私が原稿を書き、誰かに表紙を描いてもらう。出版の手続きやらは私一人でやるので、それはもちろん「セルフパブリッシング」なわけですが、それはもう「ソロの個人出版」とは呼べないような気がします。

さらに一歩進んで、一つのチームを作って「個人出版」(「自己出版」)を行う場合もあります。こうなると、企業主体の出版とどう違うのか?という疑問も立ち上がるでしょう。

そういう場合には、たとえば「インディーズ」や「インディペンデント」という言葉が使われます。

インディーズを、Wikipediaで引いてみると以下のようにあります。

インディーズとは、ある業種においてメジャー(大手)に属さず、独立性の高いもののこと。 大手(メジャー)に対して中小のものをマイナーというが、そのマイナーの中でもメジャーと資本関係や人的交流などを深く持たず、系列化されていない独立性の高いものを指す。

メジャーではなく、マイナ。さらに系列化もされていない。そういうのがインディーズです。つまり、私の表現で言えば、周辺や辺境(アウトサイダー)ということですね。

こういう表現であれば、一人であれ、数人であれ、チームであれ、「セルフパブリッシング」の実体を包括できる言葉となるでしょう。

さて、ではそれを日本語ではどういうのかというと、これが見事にありません。インディーズ・アルバムは、「自主制作盤」などと呼ばれますが、「自主制作出版」や「自主出版」と呼べばよいのでしょうか。あるいは、インディーズは、independentから来ている言葉なので、「独立出版」や「無所属出版」と呼ぶのがよいのでしょうか。

どれもしっくりはきません。どことなく表現に物足りなさがあります。

というところまで来て思い至ったのは、そういう概念__「セルフパブリッシング」が内包する行為__が、日本社会(あるいは文化)の中には無いのではないか、ということです。言い換えれば、「系列化されてもいないマイナ」な主体が、積極的に社会にコミットしていく行為が無視されていた、あるいは軽んじられていたということです。

まあ、大げさな話かもしれません。

しかし、よくよく考えてみると、フリーランスとかフリーターとかパートタイマーって、みなカタカナですね。フリーランスは「自営業者」ではあるのですが、この二つの言葉が提示しようとする概念にはやはり違いがあります。もちろん、ほとんど和製英語なんだから、日本語みたいなもんじゃないか、と言われればそうです。でも、それはそれとして「じゃあ、その言葉って具体的にどういう意味なの?」と聞かれて答えられるかどうかは、また別問題でしょう。言葉があるからといって、概念が確立されているとは限りません。

さいごに

というわけでぐるっと回ってきたわけですが、当初の問題はまるで解決しませんでした。

「インディーズ出版」という言い方が一番お茶を濁せるのですが、若干負けた気もします。「独立出版」だと、あまりにもソロ感が強いですし、かといって「無所属出版」は小規模なチームの出版を疎外します。「マイナ出版」は、個人的には好ましいですがまずもって普及しないでしょう(せいぜいMinor出版とかですね)。

すべてを一人でやる場合、他人にいくつかの作業を外注する場合、小規模なチームを作る場合、作家同士のコラボがある場合__これらすべてをまるっとひっくるめて、ビシッと表現できる言葉は何かないものでしょうか。

たぶん、そこで使われる言葉は、これからの日本社会で必要になってくる概念にもフィットしていそうな気がします。

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