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門の開いた町

Posted on 2016 年 1 月 20 日2016 年 6 月 14 日 by Rashita
 その町の門は開いていた。
 大きな門ではない。それでも城壁の所々には人が行き来できる空間があった。
 あまり大きくない門と同じように、その町も大きくはなかった。こぢんまりとではないせよ、中央都市とは比べものにはならない規模だ。それでも、町は栄えていた。少なくとも、人々の生活を満たすだけの流通があった。都市から仕入れられた苗や金属は、この町で育成・加工され、都市へと再び輸出された。その流通は、少なからずのお金を町に落としていた。そこで暮らす人も、それで満足していた。
 町の門は開いていたので、他の所からやってくる人も珍しくなかった。いろいろ巡ったあげく、ここに住むことを決めた人もいる。きっと居心地が良かったのだろう。少しずつではあるが、町は大きくなっていった。
 やがて誰かが言った。「大きなビルを建てようじゃないか」 新しくこの町にやってきた人だった。「そろそろ古くさくもなってきているし、畑を更地にしてビルを建てようぜ。工場も潰して、マンションにすればいい。そうすりゃもっと儲かる」 大半の町の人たちは儲けることなんて求めていなかった。生活が納得感で満ちていればそれでよかったのだ。だからこそ、都市ではなくこの町で暮らしているのだ。
「それはできんよ。この町のしきたりだ」
 誰が決めたわけでもないが、なんとなく皆が長と呼んでいるものがそう言った。彼は、他に言葉がなかったので、仕方なく「しきたり」という言葉を使った。それが、提案者のしゃくに障った。
「しきたり? なんだそりゃ。そんな古くさいものなんて捨てちまえよ。俺たちは自由の時代に生きているんだぜ」
 どうやら彼にとって、古いものはそれだけで価値がないらしい。また、不自由な選択をするという自由の存在も見逃されているようだった。
「この町は、独自の生産で循環しておる。都市との関係性もそれで成立してるんじゃ。もし、ここが都市と同じになってしまったら、一体どんな意味があるというんじゃ」
「そんなの知るかよ。俺はこんな古びた町が大嫌いなんだ」
「どうあっても、譲れんよ。何もしきたりは我々を縛り付けるために作られたわけじゃない。この町に生きてきた人たちが、経験として学んできたものが受け継がれているんじゃ。昔はこの辺にもたくさんの町があった。いろいろなやり方で栄えていた。でも、町の生態系を壊してきたところは、すべて消え去っていったんじゃ。適応できなかった遺伝子みたいにな。だから、これは生き残るためのルールなんじゃ、生き延びるための戦略なんじゃ。それを曲げることはできん」
 話し合いはどこまで行っても平行線だった。もともと大切にしたいものが違っていたのだ。それがたまたま同じ町で交わってしまった。町の門が開いていたのだから、起こるべくして起こった出来事であっただろう。かといって、町の門を閉める選択肢はなかった。そうすれば、町は町ではなくなってしまう。
「じゃあ、お前らはもっと栄えなくてもいいのか?」
「刹那の栄光にどんな意味がある?」
 それが決別の言葉だった。
「じゃあ、俺たちは町を出ていく。近くに新しい町、いやシティーを作るぜ。お前たちは近寄るなよ」
「もちろんじゃ」
 そういって町に残る人々は、出て行く人々を見送った。中には拍手しているものすらいた。それは勇気への喝采だったのだろうか。それとも別の何かだったのだろうか。
 ともかく町は再び町に戻った。循環は維持され、都市との関係も良好だ。きっとそれはこれからも続いていくだろう。少しずつ変化はするかもしれないが、大切にしたいものは変わらない。町は、どこまでいっても町である。都市ではない何かであり、だからこそ町には町としての意義がある。
 ときどきは新しいものたちが町に訪れ、一悶着を起こすかもしれない。でも、それも同じようにして納まるはずだ。町は定義ではない。意志の総体だ。だから、町は、ある種の変化を拒絶しながら続いていく。そこで生きる人たちの願いと祈りを引き受けながら、今僕がこうしてこれを紡いでいるように続いていくのだ。
 町を出て行ったものたちの物語は、今はもう誰も知らない。きっと受け継がれなかったのだろう。だからこそ同じことが繰り返される。
 違うことを繰り返し、同じことを繰り返す。世界はそんな風にして回っていく。
 町の門は今日も開いている。入るのも、出て行くのも自由だ。

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