7-本の紹介

【書評】[エッセンシャル版]イノベーションと企業家精神(P・F・ドラッカー)

Entrepreneurshipは、日本語では起業家精神、あるいは企業家精神と訳される。前者の場合は、ベンチャー的な意味合いが強くなるだろう。では、後者はどうだろうか。

実は、その意味合いははっきりしない。

イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】
P.F.ドラッカー
ダイヤモンド社
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※献本ありがとうございます。

ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』では、ベンチャーは企業家の一形態として位置づけられている。ドラッカーの視野では、既存企業にも公的機関にも企業家精神が必要なのだ。

では、その企業家精神とは何か。それは言葉から受ける印象とは違い、気質ではないとドラッカーは説く。ではなにか。それはある種の特性を持つ行動である。だから、ほとんど誰しもが学ぶことによって企業家的に振る舞える。企業家になれる。

しかし保留はある。「誰しも」がではなく「ほとんど誰しもが」と書いたのもそのためだ。唯一、気質(メンタル的傾向)において企業家に向かないのは「確実性を必要とする人」である。ドラッカーが書いているように、企業家は変化を捉え、変化を促進し、変化を利用する。そして、変化と確実性は相容れない。

確かに、確実性を必要とする人は、企業家に向かない。だがそのような人は、政治家、軍の将校、海外航路の船長など、いろいろなものに向かない。それらのものすべてに意思決定が必要である。意思決定の本質は不確実性にある。

ドラッカーは本書の中で、イノベーションのための機会を体系的にまとめ、組織ごとの企業家精神を整理してから、企業家が取り得る戦略を4つ提示した。そのどれもが素晴らしく有用である。戯れ言は一つもない。しかし、それらの知識よりも先に必要なものが、この言葉である。

「意思決定の本質は不確実性にある」

なんならfont-size:512pxぐらいにして、パソコンの壁紙に設定しておいても良いくらいの箴言だ。意思決定には、必ず不確実性が伴う。いや、不確実性が伴うからこそ意思決定が必要なのだ。

それをはき違えると、どれだけ優れた知識も急激にその意味合いを失ってしまう。

企業家は変化を当然かつ健全なものとする。彼ら自身は、それらの変化を引き起こさないかもしれない。しかし、変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用する。これが企業家および企業家精神の定義である。

これは「確実性を求める」気持ちとはまったく違う。「こういう方法を実行すれば、成功しますよ」と聞いて実行することとも違う。リスクを避け、確実な結果だけを求める気持ちとも違う。

それは、足りないものを目にしたとき、嘆くよりも先にそれを機会として捉えることだ。同じもので埋め尽くされている状況の中で、「いかに同じものを生み出さないか」を考えることだ。変化し離れていくユーザーに対し、それより先に自らが変化を起こすことだ。

どうなるかはわからない。そして、どうなるかわからないからこそ、それを実行するのだ。それが変化ということであり、意思決定ということである。

ドラッカーは終章「企業家社会」の中でこんな風に書いている。

そのうえこれからは、軍隊の昇進コースのような道筋と到達点の明らかなキャリアはない。一人ひとりの人間が、自らの人生において、自らの意思によって、さまざまなキャリアを捜し進んでいくことが当然となる。

つまり、人生にも意思決定が必要になる、ということだ。そこにはリスクがあり、変化がある。つまり、不確実性に晒されることになる。そうした状況で確実性を求めるのは、たいてい事実を歪めることになる。リスクから目をそらし、より大きなリスクを抱え込む。

本書で語られているイノベーションの機会や企業家戦略は、「企業」のためだけのものではない。本書では公的機関やベンチャーも視野に入っているが、それだけでもない。私たち個人が、社会の中でその能力をいかに発揮するのか、という視点でも読みうる。

変化が当然となっていく社会において、私たちはどのような心構えを持ち、戦略を携えたらよいのか。本書は、それを考える良い材料となってくれるだろう。

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