さて、一体どんなことが起きているのでしょうか。
インターシフト
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※献本ありがとうございます。
副題は「眠りと夢と記憶の秘密」。人が眠りに落ちているとき、脳はどのような働きをしているのか、そしてそこに夢や記憶といったものはどう関わってくるのかが提示されています。
目次は以下の通り。
第1章:なぜ眠るのか
第2章:睡眠は脳にとってどれほど大切か
第3章:脳と記憶の仕組み
第4章:目覚めと眠りのコントロール
第5章:眠りは心の大掃除
第6章:記憶はどう再生され、固まっていくか
第7章:なぜ夢を見るのか
第8章:ひと晩寝ると問題が解けるわけ
第9章:いつまでも忘れられない記憶
第10章:睡眠は心の傷を癒す?
第11章:眠りのパターン、IQ、睡眠障害
第12章:記憶力を高め、学習を促進する方法
第13章:快適睡眠を実現するガイド
脳神経学の知見を交えながら、さまざまな実験結果とそこから推測できる脳と記憶の話が語られていきます。
単純にそれだけでも知的好奇心をかき立てられますが、第12章および第13章では、「睡眠」をいかに活かすのか、という実際的なノウハウも解説されています。ここの部分だけでも、短い新書になりそうです。
情報のオーバーラップ・モデル
さて、睡眠と記憶には何かしら関係があるだろうと感じている人は多いでしょう。「寝る前に勉強した方が、記憶に残りやすい」といった受験ノウハウもよく耳にします。
では、そうして寝ている間、脳は記憶をどのようにオペレートしているのでしょうか。その過程は、まさに情報処理そのものであり、実際に目視することはできません。しかし、いくつかの実験からおおよそ二つの可能性が見えてきます。
可能性1:不要な記憶を捨てている。結果的に必要な記憶が残る。
可能性2:必要な記憶を強化している。相対的に不必要な記憶が消えやすくなる。
面白いのは、この二つの可能性を示唆する実験結果がある、という点です。まるで真逆の情報処理にも関わらず、です。では、どちらが正しいのか。
著者はその疑問を却下し、ジン・テーゼを打ち出します。それが「情報のオーバーラップ・モデル」です。おそらくここが本書の白眉の一つでしょう。
「情報のオーバーラップ・モデル」では、睡眠中の脳の情報処理を二段階に想定します。まず最初に脳は複数の記憶を同時に再生します。すると複数の領域にまたがるニューロンは、そうでないニューロンよりも強く活性化します(円が重なるベン図を思い浮かべてください)。
その後、脳はシナプスのダウンスケーリングを実行します。全体的に不活性化させるわけですね。すると、どうなるでしょうか。残るのは、一段階目で強く活性化したニューロンだけ、ということになります。つまり、強化と消去の両方を使っているわけです。
では、複数の領域にまたがるニューロンとはどのようなものでしょうか。
たとえば、誕生日パーティーに10回行ったとします。時間、開催場所、規模といったものはそれぞれで違うでしょう。しかし、「ケーキが出てくる」「プレゼントを贈る」といった現象はそれぞれで共通しているでしょう。
ということは、仮に誕生日パーティーの記憶が同時に再生された場合、強まるのは「ケーキが出てくる」「プレゼントを贈る」という記憶になります。そしてダウンスケール後では、誕生日パーティーに関する雑多な記憶が間引きされ、それぞれに共通する要素だけが残ります。それが結果的に「誕生日パーティーにはケーキが出てくる」といった記憶(あるいは概念)を形成する、というのが著者らが提唱しているモデルです。
このモデルですべての記憶の形成を説明できるわけではないようですが、個人的には「なるほどな」と納得できるものでした。さらに言えば、これはあるものに似ています。
何かと言えば、GTDの(気になることの)収集です。
すべてを想起し、その後間引く
GTDでは、「重要なこと」だけを収集したりはしません。「気になること」すべてにチェックをかけていきます。言い換えれば、それらすべてに気を配っていきます。
その後「気になること」を適切なリストに割り振っていくのですが、その割り振り方は、あるものはすぐ行動するべきものに、別のあるものは今のところは気にしなくていいものへといった形になります。
で、この「すぐ行動するべきもの」に割り振られるものというのは、自分が持つ役割ややりたいことや責任の(ベン図における)円が重なっているものだという風には捉えられないでしょうか。そう考えれば、重なりが小さいもの、あるいは何も重なっていないものは「いつかやること」に割り振られるわけです。
この視点に立てば、睡眠中の脳の記憶処理(記録の強化、概念形成)と、GTDの収集(およびレビュー)には類似点があることになります。親和性という言葉を用いても良いでしょう。
さいごに
もちろん、いささか強引なことは承知していますが、これはGTDにおいて何を「次にすること」にするのかのジャッジに関する示唆を与えてくれる気がします。
というわけで、睡眠だけでなく脳の情報処理に関して知的刺激に溢れた本でした。