6-エッセイ

価値のチェック あるいは「〜〜と思っていたけども、実は○○だった」という体験

私が星新一さんの小説を読んだのはごく最近のことです。いつ読んだかは、かなりはっきりしていて、2014年の6月に更新された、

星新一が示した生の意味と無意味 前編|新しい「古典」を読む|finalvent|cakes(ケイクス)

の記事を読んだ直後です。書店へ向かい、『ボッコちゃん』を購入して読みました。そして、ズギューンと頭を打ち抜かれました。こりゃすげえや。

逆に言えば、finalventさんが紹介しなければ、そのままずっと読まなかったかもしれません。それまでの私の「星新一像」は、「すごくたくさんショートショートを書いたおっちゃん」ぐらいの認識でしかなかったのです。

それはプラマイゼロのフラットというよりは、ややマイナスの領域にあったかもしれません。なんというか、ちゃらちゃらした感じを受けていたのです。もちろん、大きな勘違いでした。まあ、一作も読んでいない作家に対する認識なんて、誤っていて当然ぐらいのものでしょう。

とりあえず、価値感がぐるっと一転したのを覚えています。


このように、「〜〜と思っていたけども、実は○○だった」というようなことは、人生においてたびたび出現します。

たとえば、『ガールズ&パンツァー』。まったく正直に書けば、「はいはい、女の子が出てきて、戦車に乗ってるんだよね、はいはい」と思っていました。「とりあえず女の子からませておけばいいだろう」な雰囲気を感じてしまっていたのです。しかし、たまたま妻が録画していた一話目を観るというので、とりあえず一緒に観てみると、その雰囲気が単なる先入観でしかなかったことが明らかになりました。

ほかにも『境界の彼方』でも似たようなことがありました。これまた妻が録画していたこのアニメを観ていたので、ちらっと横目でみた感じで、「あのさ、眼鏡の女の子出せば、俺たちが喜ぶとでも思ってるのか、京アニ」と斜に構えていたんですが、結局ずるずる最後まで観てしまいました。そうです、面白いわけです。

他にもいろいろありそうですが、とりあえずはこのくらいにしておきましょう。


人は価値を持つ生き物で、価値を固める生き物です。

先入観は良くないとは言え、先入観を抱いてしまう心理プロセスをオフにすることはできません。だからこそ、自分の価値を検証することは有用です。

自分の価値は自分の価値として確立しながらも、その一部を取り出して「はたして、それは確からしいのか」を確認するわけです。そして、そのために「期待値の高い情報源」や「たまたまの機会」といったものが役に立ちます。

「自分はたいしたことがないと思っているけど、あの人が言っているからとりあえず読んでみよう」
「あまり面白くなさそうだけど、あの人が観ようと言っているからとりあえず一緒に観よう」

ここでは、自分が持つ価値に固執する姿勢がいったん退けられています。その代わりに、別の価値を試してみようという姿勢があります。もちろん、その姿勢には「失敗」が付きまといます。「やっぱり面白くなかった」「予想通りつまらなかった」ということが起こりえるわけです。

でも、そうした可能性を引き受けない限りは、自分の価値のチェック&アップデートは行えません。領域の外に出ようとしない限り、領域を広げることはできないのです。


大切なことなので書いておきますが、これは「自分の価値なんて捨てて、権威者に従え」とか「すべてをたまたまに寄せろ」といったことではありません。

権威者に盲目的に従うのは、「自分」という権威者から「他者」という権威者に視点を移したにすぎません。どちらにせよ、そこではチェック機能が欠落しています。また、すべてを「たまたま」に寄せてしまえば、自分が拠り所にできる場所がなくなり、精神的に不安定な状態が続いてしまうでしょう。それはそれで別の厄介さがあります。

自分の中に価値体系を確立しながらも、ときどきはその一部を取り出して、アップデートできるようにすること。そこには失敗__ほとんど無為な時間やお金を使うこと__の可能性も含まれていますが、それは「ウィルスチェックをしたけれども、何も発見できなかった」と同じようなものです。そのウィルスチェックを時間の無駄だったと言う人はいないでしょう。

どちらにせよ、先入観は避けては通れません。だから、心を開いておくことが大切です。そしてその「心を開く」ことの実際的なアクションが、「とりあえず試してみること」なのかもしれません。

ちなみに、この「とりあえず」は、≪失敗するかもしれないけど≫や、≪大きな期待は持たずに≫といったニュアンスを持っています。それは肯定的なニュアンスなのです。

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