7-本の紹介

【書評】ウェブ小説の衝撃(飯田一史)

「今、ウェブ小説が熱い」__みたいなことを書くとすごくダサいわけだが、たしかにウェブ小説の存在感は増している。

私が電撃文庫で一番新刊を望んでいる『ソードアート・オンライン』はウェブ発であるし、なんだかんだで全巻買っている『魔法科高校の劣等生』もそうだ。

『オーバーロード』『ゲート』『ログ・ホライズン』『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』『ニンジャスレイヤー』……と言った有名作も何らかの形でウェブを経由している。

なぜ今ウェブ小説の存在感がそんなに増しているのだろうか。そこには一体何があり、そして何がないのだろうか。それを読み解くのが本書である。

ウェブ小説の衝撃: ネット発ヒットコンテンツのしくみ (単行本)
飯田 一史
筑摩書房
売り上げランキング: 8,043

概要

目次は以下の通り。

  • はじめに ウェブ/テクノロジーは旧態依然とした業界に何をもたらすか?
  • 第一部 紙の雑誌のオワコン化が文芸の世界にもたらした地殻変動
  • 第二部 概論――ウェブ小説投稿プラットフォームとその書籍化
  • 第三部 なぜウェブ小説プラットフォームは支持されるのか?
  • 第四部 作品内容の分析
  • 第五部 書店と版元とウェブコンテンツと読者との複雑な関係
  • 第六部 オルナタティブ
  • 第七部 よくある疑問・誤解・批判に応える
  • おわりに 「効率性の重視」と「中長期的な視野」の両立を

「ウェブで読める小説」とかなり広い対象を視野に入れているので、一つひとつの掘り下げはさほどは深くない。その代わり、特定のジャンルに偏らないバランスの良い視座となっている。また文章も軽妙で、するすると読んでいける。著者のプロフィールを覗いてみると、私とほぼ同年代であった。なるほど、と頷ける。


面白い観点はいくつもあるのだが、重要な指摘は次の二つであろう。

  • 「偽りの二者択一」の否定
  • スタイルの変異と変換

「偽りの二者択一」とは何か? それは「紙の本か、電子書籍か」という二択だ。あるいはポジティブに変換して「紙の本も電子書籍も」でもいい。どちらにせよ、この選択肢自体が大きな欠落を抱えていると著者は指摘する。その欠落とは「ウェブ(メディア)」である。

第一部の冒頭に悲惨な話が紹介されている。いわく、新人賞を受賞した書き手なのに雑誌には載せるが単行本にはしてもらえない。いわく、版元からの依頼を受けて雑誌に連載したのに連載終了後に本にならない。いわく、新人賞を受賞したのに次の作品を雑誌に載せてもらえない。単行本企画が通らない。

なんて日だ!

と思わず叫びたくなってくる。これならもう新人賞とか目指さなくてもいいんじゃね? と私なんかは思ってしまうわけだが、たぶんそう感じている書き手は少なからずいるのだろう。そうした書き手の受け皿がウェブメディアでもある。


ではなぜ、版元はそうした書き手の原稿を本にしないのか。話は簡単で売れる見込みが立たないからだ。ではなぜ売れる見込みが立たないのか。それは「雑誌の影響力が低下しているからだ」と著者は鋭く指摘する。小説の雑誌が数千部から多くて一万部であることに触れた上で、著者はばっさりと切り捨てる。

 ユニークユーザーが月間一万ていどで上限がギャップされている(アクセス制限がされている)サイトにメディアとしての拡散力があるだろうか?
 あるわけがない。

痛烈だが、真実でもある。紙の雑誌には、載せた作品をプロモーションする力がない。だから単行本を作れないのだ。そしてこれが、テレビで人気のタレントが本を書けば売れる理由でもあり、漫画作品が映像化されると爆発的に売れる理由でもある。そちらのメディアには、プロモーションする力があるのだ。この差は大きい。

そのギャップを埋める力がウェブにあると著者は述べる。そして、ウェブを活用しながら紙の本の販売につなげた事例をいくつも紹介・分析していく。

本書の視点が面白いのはそこである。「ウェブ小説の衝撃」というタイトルではあるが、視点はウェブで閉じてはいない。緩く言ってしまえば「本とウェブがいかに手に取り合うか」という視点である。だから本書は、書き手として読んでも十分面白いが、グサグサと突き刺さるのは出版業界の人間だろう。

本書を読んで、それでもなおウェブに何一つ価値を見いだせないならば、もうお手上げである。

メディアの発掘と変換

だからといって、ウェブで人気のコンテンツを本にすればいいんでしょ、と考えるのもあまりに軽率だ。紙の本には紙の本のメディアとしての性質があり、またコンテキストもある。もちろんウェブメディアにも同様にそれがある。その差異を見極めた上で、いかに「変換」するのかがコンテンツデザイナー(編集者)としての腕の見せ所になるだろう。

「ウェブでこんなに人気なのに、一般に知られていないのは惜しい。ぜひ知ってもらいたい」と思って動くのも楽しそうだし、「ウェブではあまり受けないかもしれないが、紙で出せばこのコンテンツはいける」と判断するのも腕がなるだろう。そういう発掘を好む人が編集者には多い(気がする)。

こうした「変換」が盛んになれば、「本」のコンテンツももっと充実してくるだろうし、多様性も育まれていくはずだ。

メディアの特性とコンテンツ

さて、先ほど紙の本には紙の本のメディアとしての性質があると書いた。これはたとえば、巻物には巻物のメディアとしての性質があるという風にも言える。当然それはウェブにもあるし、電子書籍にもある。それぞれのメディアの性質に合わせて、中で展開されるコンテンツのスタイルも当然変わってくる。

最近、「電子書籍の伸びが頭打ちに……」みたいな話を耳にするのだが、現状の電子書籍の大半は紙の本の内容をそのまま電子化したものなのだからそれは当然だろう。どうしたって限界はある。

電子書籍がメディアとしてのアイデンティティを確立するためには、「電子書籍ならでは」のコンテンツが当たり前にならなければいけない。言い換えれば、電子書籍というメディアの特性に合わせたスタイルを持つコンテンツ、ということだ。それは別に「マルチメディアでリッチな体験を」といったことではなく、文章のボリューム、コンテンツの語り方、文体が電子書籍に適したコンテンツという程度の話である。

結局のところ、メディアが変われば消費のされ方を含むコンテキストは変わっていく。それに合わせてコンテンツのスタイルも変わっていくのだ。

おそらく電子書籍のスタイルの終着点は、ウェブメディアのスタイルを継承しながらも、少し紙の本に寄せたようなものになるのかもしれない。それはたぶん、EPUBというものがxhtmlをパッケージングしたもの、ということと相似形を持つだろう。

話がずいぶん脱線してしまったが、本書は基本的にポジティブな内容である。雑誌メディアの代替として(あるいは新しい武器として)ウェブを取り込むとき、出版業界は新しい一歩を踏み出すだろう。そんな期待感を持たせてくれる一冊である。

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