本の紹介

【書評】考えながら書く人のためのScrivener入門(向井 領治)

遂にScrivenerの入門書が発売となった。

考えながら書く人のためのScrivener入門 小説・論文・レポート、長文を書きたい人へ
ビー・エヌ・エヌ新社 (2016-03-18)
売り上げランキング: 741

思い返してみると、2008年の以下の記事が発端だった。

物書きをする人の楽園:Scrivener [Mac OS X] | Lifehacking.jp

これを読んでぐぬぬとなり、試用版を経てから購入と至った。たしかにアプリとしては少し高いが、もちろん損した気分は一切無い。

Scrivener
カテゴリ: 仕事効率化, 教育

それでも当初は、「階層構造を持つテキストを管理するのに便利だね」ぐらいの認識であった。紙の書籍のような10万字にも及ぶ原稿を管理するのに最適なツールなのだ。他にも執筆を補助する機能が盛りだくさんである。

でも、私が本当にScrivenerのすごさに気がついたのは電子書籍を作るようになってからである。このツールの「コンパイル」は非常に使い勝手が良い。「そうそう、そういうことしたいんだよ」というのがだいたい実現されている。考え抜かれた細やかなツールである。

実際例をお見せしよう。最近発売した『これから本を書く人への手紙』の原稿データである。

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本文となるものが一つのフォルダにまとめられ、それ以外はDraftの直下に並んでいる。

ちなみに、実際の本の目次はどうなっているかというと、当たり前のようにすべてフラットに並んでいる。

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じゃあ、以上のようにフォルダにまとめる意味はどこにあるのかというと、これがすごくあるのだ。実際の本のページを眺めてみよう。

こちらが「はじめに」だ。

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そしてこちらが第一章の「道を決める」。

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大きく異なることにお気づきだろうか。

「はじめに」では、見出しと本文が同一のページに置かれているのに対し、「道を決める」は見出しだけがページとなり、さらに縦のホライズンラインが入っている。それによくみると、章番号も表示されている。まったく違うデザインである。では原稿データではどうなっているか。

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まったく同じである。つまり、Scrivenerのコンパイル機能によって上のようなデザインの違いを「自動的に」生成しているのだ。

話がマニアックになってきたので、開き直ってマニアックな話を続けておくと、コンパイル時のフォーマットは次のように設定している。

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この「当てるフォーマットを変えられる」という点で、「フォルダにまとめる」という意味が出てくるのだ。このすごさ・ありがたさはやはり自分で使ってみないと(=そのニーズがそれほど切実なものかを理解しないと)実感できないだろう。でもまあ、かなりすごいのである。

そんな素晴らしいScrivenerなのだが、二つ欠点がある。

  1. メニュー周りがすべて英語
  2. 機能が多すぎる

日本初のScrivener入門書である本書では、みごとにこの問題に取り組んでいる。1.はストレートに「日本語化パッチ」の導入を丁寧に解説し、2.は基本的な使い方に絞り込むことで対応している。正直私もScrivenerの常用者であるが、すべての機能を把握しているわけではない。それでも便利に使えるツールなのだ。

本書では、Scrivenerの簡単な全体像を示し、アイデア出しから本文執筆そしてコンパイルへ、という一連のプロジェクトの進め方をフォローしている。本書で解説されている内容を頭にたたき込んでおけば、Scrivenerを使う上で問題はほぼ生じないだろう。

ちなみに私はコンパイル時の「正規表現による置換」機能を知らなかったので(おーじーざす)、本書は大変勉強になった。これでまた一つ「手抜き」ができるというものだ。それだけでも十分な価値があると言えるだろう。

もう一つ、本書にはおまけコンテンツとして小説家:藤井太洋さんのロングインタビューが付いている。普通、こういうおまけコンテンツは中だるみする中盤か、あるいは付録的に最後に掲載されるものだが、本書では冒頭である。

Scrivenerの説明に入る前にインタビューを載せるという構成に若干戸惑いを感じたのだが、そもそもScrivenerを知らないユーザーの方が多いわけだから、そのツールが実際にどう役立ったのかの話を持ってくるのは導入的に意義があるのだろう。ちなみにかなりマニアックな話が展開されているのでそれもまた面白い。

これでようやく、Scrivenerについて聞かれたとき提示できる本ができたことになる。さらに言えば、本書を土台としてScirvenerの使い込みテクニック集みたいな本も(長大にならずに)書くことができる。もちろん、当ブログで連載している「Scrivenerへの散歩道」も役に立つはずなので合わせてご覧いただけるとよいだろう。

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