6-エッセイ

ビジネス書とストーリー

ビジネス書に物語を持ち込むことには、どんな効能があるのでしょうか。

『ザ・ゴール』

ビジネス書+物語、の式でぱっと思い浮かぶのはエリヤフ・ゴールドラットの『ザ・ゴール』です。

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か
エリヤフ・ゴールドラット
ダイヤモンド社
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かなり分厚い本ですが、わりあいさくさく読み進められます。物語の効能の一つです。

本書は、TOCについて学べる本ですが、TOCを説明した本ではありません。TOCとは一体何で、それはどのような状態に関係し、何かを変えるためにはどんな思考が必要なのかが提示されています。いちいちが実践であり具体です。物語の効能の一つです。

本書にはメンターが登場しますが、危機的な状況に突然メンターが登場し、素晴らしい答えを与えてくれて、問題がくるりと解決する、というパターンにはなっていません。メンターが与えるのは、方向性であり、疑問であり、問いの立て方です。実践は自分たちでやらなければいけません。現場を観察し、仲間と対話した上で具体的に何をするのかを決めるのです。

それを提示できるのも、物語の効用の一つです。

『数学ガール』

視点を変えてみましょう。『数学ガール』という本があります。

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)
結城 浩
SBクリエイティブ
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本書の数学はガチなので、「ライトな数学読み物」といった雰囲気ではありません。でも、そういう風に読むこともできます。数式部分をまるっと読み飛ばし、ストーリー部分だけを読んでいくこともできるのです。で、たとえそれでも「なんとなくの雰囲気」を捉まえることができます。

これが結構大切で、「なんかようわからへんから、ぜんぜん読めへんかった」ということがないのです。言い換えれば、読者の心と対象(この場合数学)との距離を離さない(うまくいけば近づける)効果が期待できます。そうやって心の距離をキープしておければ、別の機会にちょっと勉強してみようと思うかもしれません。「ぜんぜん読めへんかった」で嫌気がさしてしまうと、それ以降のインプットが忌避される可能性があるのです。

でもって本作は、数学の話でもありますが、学びの話でもあります。これは『ザ・ゴール』にも共通して言えることです。理論の説明ではなく、その理論をいかに学んでいくのか(その手に掴んでいくのか)が語られているのです。

『数学ガール』の場合、主人公は「教えられる側」に回ると共に「教える側」にも回ります。非常に複雑な構造を持った作品です。つまり、学びの物語でありながら、教えの物語でもあるのです。でも、究極的に言えばそれは一点に集約されます。なにせ教えることは学ぶことなのですから。

さらに言うと、学びの物語は、知識獲得の物語であると共に、失敗の物語でもあります。なにせ失敗のないところに学びはありません。この点はとても大切です。

物語では、失敗を書けるのです。失敗の体験そのものを描くことができます。解説文の場合、「成功した自分が、過去を振り返ったときにやってきた失敗」を語ることはできます。しかしそれは単なる振り返りでしかありません。言い換えれば、心理的な距離が遠いのです。物語の場合は、失敗の過程を「当人」の話として語ることができます。ここでは距離が非常に近くなります。

これも物語の効用の一つと言えるでしょう。

さいごに

あえて言うまでもありませんが、以下の本のストーリーパートは、(ゴーストライターではなく)私が自分で書いています。

ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由
倉下 忠憲
シーアンドアール研究所 (2016-02-26)
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で、それを書く上で、上記のようなことをいろいろ考えたわけです。

本書にもいろいろ失敗話が出てきていますが、それらは作り話ではなく、私自身、あるいは他の人から聞いた「失敗」が素材となっています。だから、きっと役に立ちます。

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