本書は「脳トレ」についての本です。
インターシフト
売り上げランキング: 3,875
※献本ありがとうございます。
とはいえ、「この脳トレであなたの脳力が10倍に!」というテイストではありません。むしろ「本当に効く脳トレは何だろうか?」という視点の本です。
目次は以下の通り。
- はじめに:知能を上げる科学
- 第1章:脳の作業空間を拡張する
- 第2章:知能をどう測るか
- 第3章:本当に効く脳トレとは?
- 第4章:よく知られた方法を検証する
- 第5章:頭をよくする薬と帽子
- 第6章:さあ、脳の訓練を始めよう!
- 第7章:あなたはマウスより賢いか
- 第8章:知能向上の懐疑派たち
- 第9章:アルジャーノンが現実に
- 第10章:タイタンの戦い
- 第11章:最後の試験
脳トレとは、何かしらのトレーニングを行うことで知能を向上させる行為を指します。日本ではすでに一般化していて、ゲームなどにも頻繁に登場しているのですが、実はこれはあまり科学的な裏付けがないという事実も一方にはあります。
しかし、それはある程度はやむを得ないのでしょう。
測定しているのは何か?
脳トレを図式化すれば、
知能X→脳トレ実施→知能Y
となり、X < Y となってはじめてその脳トレに効果があると言えます。問題は、そのXやY、つまり知能をいかに測定するのか、という点です。
人間というのは、何であれ繰り返し行えば一定レベルは技能が向上するものです。たとえば旗揚げゲームだって、何度か繰り返せば少しずつ上手くなっていくでしょう。で、仮に上達したとして、それを「知能が向上した」と呼ぶことができるでしょうか。もしそう呼ぶのが難しいのであれば、脳トレにも同じ疑問がぶつけられます。
つまり知能が上がったんじゃなくて、脳トレのゲームに慣れただけではないのか、ということです。これは「知能」や「知能の向上」をいかに定義するのか、という問題であり、科学的な論争がそこには潜んでいます。本書には、そのややこしい争いも掲載されており、この問題のややこしさがドスンと突きつけられます。
ただし難しい話ばかりではありません。本書が学術書ではなく、一般向けとして機能するのは著者の「体当たり」のチャレンジがあるからでしょう。さまざまな「脳トレ」について情報を集め、それらを一定期間実践してみる。その前後で、複数の知能測定を実施し、「知能は本当に向上するのか」を確かめる。面白い試みです。
しかし著者は「どの脳トレが本当に効果があるのか」を対照実験しようとしたわけではありません。もっとざっくりと「知能は上がりうるのか」を確かめようとしただけです。で、その結果はどうなったのか。それは本書で直接確かめてもらうとして、著者が結論でまとめている話にはいろいろ考えさせられるものがあります。
さいごに
知能が仮に遺伝子によって規定され、決して揺るがないようなものであれば「人生において知能が大切だ」と言ってしまうことには政治的な危うさが伴います。だから言及を避け、EQや「努力の積み重ね」で結果が決まるという言説がもてはやされた側面があるのでしょう。
もちろん、そうしたスキルや時間の使い方もたしかに重要です。でも、だからといって知能なんてどうでもいい、というわけにはいかないでしょう。そう考えるのはあまりにも性急で、白黒思考すぎます。
(前略)たしかにIQがすべてではない。最も重要なことではないかもしれない。しかし重要な性質の一つであるはずだ。それは小学校のうちからわかるし、職場や毎日の新聞を見てもわかる。知能(あるいは頭のよさ)は重要なのだ。
なぜか。
知能は人間と、地上に住む他の動物とを分けるものだ。知能はただ多くの事実を知っていることではなく、それらの事実を理解し、分析する、学ぶ、ものごとの筋を通す、情報を知識に変換する、知識を利益にする、混沌の中から意味を見出すといったことも含まれる。
それはつまり「生きていく」ために必要なことでもあります。もしその力が何かしらのトレーニングで向上するならば、取り組む価値はあるでしょう。本当に?__それを考えるのも知能の力です。