7-本の紹介

【書評】アリエリー教授の人生相談室(ダン・アリエリー)

行動経済学者ダン・アリエリーの本は、だいたいどれも面白い。

話題が身近であり、ユーモアもある。ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』は至上の一冊ではあるが、その分近寄りがたかったりもする。アリエリーの本には、そんな雰囲気は特になく、気楽に講義を聴いている気分になれる。

本書は、そのアリエリーが担当しているウォールストリート・ジャーナルのコラム「アスク・アリエリー」をまとめたものだ。読者からの質問にアリエリーが答えるという形なので、身近さとユーモア度はさらにアップしている。スーツを脱いで楽しめる読み物と言っていいだろう。


判断は難しいところだが、本書には実用的価値もあるように思う。なにせ読者が困っていることに答えているのだ。悩みを共有する人ならば、アリエリーのアドバイスや何かしら役に立つに違いない。

ある現象にどんな認知効果が働いているのか、(もしそんなものがあるとすれば)どんな対処方法があるのか。ときどき冗談もまじえながら、行動経済学の知見を生活に添えてアリエリーは回答する。ウィリアム・ヘイフェリが描く挿絵も、絶妙なアクセントだ。たとえばこんな一枚がある。

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※p.45より。

私はこれを見て、「ふむ」と考え込んでしまった。一見冗談のようである。が、本当に「注意持続時間」の短い順に並べることができたらどうなるだろうか。やっぱりいろいろ考えてしまう。本書には、こうしたイラストが数多く挿入されている。


アリエリーも、ヘイウェリもやり手なわけだが、読者も負けていない。二つ感心したエピソードを紹介してみよう。

現金が持つ禁忌性というものがある。簡単な例では、冷蔵庫に入っている誰の物かはわからない25セントのコーラは勝手に飲まれるが、現金の25セントを勝手に持っていく人はほとんどいない、というやつだ。たしかに、物を拝借するとき、私たちはそれと同等の現金を拝借しているような気持ちはあまり抱かない。

ここまでは実験的知見なのだが、質問を寄せた読者の友人は、職場でホッチキスが頻繁に「拝借」されている事態に対処しようとしてあることを行った。それが何か想像できるだろうか。なんとホッチキスに25セント硬貨を貼り付けたそうだ。結果、コインを貼り付けた物は5年間一つも「拝借」されなかったと言う。素晴らしいハックではないか。


もう一つある。実に不合理な話だ。ある会社で使っているエクセルのマクロがあった。データを分析し、自動的にレポートに仕上げるマクロだ。そのマクロの実行には2分ほどかかったという。そして、そこに苦情があったらしい。遅すぎる、と。

そこで質問者は、マクロを改造することにした。それが動作速度の向上ではなく、表現手法の変更だったのが面白い。彼は、マクロを背景(バックグラウンド)で走らせるのではなく、実行中の処理を目に見えるようにした。データがスライスされたり、データベースの色が変わったり、ヘッダーやタイトルやグラフが作成される様子が、早回しのビデオのように見えるようにしたのだ。

結果、そのマクロは皆から「速くてすばらしい」と褒められるようになったらしい。処理を目に見えるようにしたために、実際の実行時間は3倍になったにもかかわらず、だ。アリエリーは次のように解説する。

ここでのポイントは、私たちは仕事から得られるアウトプットの質を直接評価するのは苦手でも、こと労力に関してはごく気軽に、あたりまえのように評価するということだ。そしておもしろいことに、誰かが自分のために一生懸命はたらいてくれる喜びは、人間だけでなく、コンピュータのアルゴリズムがはたらいてくれる場合にもあてはまるんだ。

前者は、私たちが仕事をする上でどのように振る舞えば良いかを教えてくれる。そう、「労力」をかけていることを積極的にアピールすればいいのだ。上司の顔覚えも良くなるだろう。またこれは、「アイデアを考える」といった行為が、まったく仕事的に評価されない理由でもある。きっと、脳波計でもつけて仕事をしていればいいのだろう。

後者は、UIのデザインについて教えてくれる。今後、人工知能が私たちの生活に寄り添うようになって、「マスター、今日はいかがいたしますか?」とアリスが尋ねてくれるようになったとき、そこにどんな台詞を載せればいいのかが、この知見から見えてくる。

というわけで、本書はクスクス笑いながら読める本でもあり、ふといろいろ考えてしまう本でもある。これまでのアリエリーの著作を気に入っているなら、適合率は高いだろう。

ファスト&スロー (上)
早川書房 (2012-12-28)
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