3-叛逆の仕事術

「システム2は、サボりたがってるんだ」

のきばトーク04を収録しました。

今回はダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』が主要なテーマ。

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ちなみに、放送内でも言ってますが、『ファスト&スロー』は「これはちょっと読んでおいた方がいいかもよブックリスト100」に入る一冊です(実際は二冊ですけども)。上下巻合わせても文庫で2000円ほどですし、Kindle版ならもうちょっとお買い得ですね。で、余裕でおつりがきます。(出版された時点の)行動経済学の総まとめみたいな内容ですし、たいへん丁寧に書かれているので、読み込みやすいかと。

行動経済学の本であれば、ダン・アリエリー教授の本がこれ以前にいくつか出ていますし、これまた面白い(fun的な面白さも多い)のでオススメで、さらには、チップ・ハース、ダン・ハースコンビの『スイッチ!』なんかも似たようなテーマを扱っているんですが、『ファスト&スロー』は、やはりシステム1、システム2の対比が実にすばらしいのです。

『スイッチ!』では、この二つを象と象使いで対比していて、それはそれでファストな思考の強さをうまく表現しているのですが、微妙に足りない部分もあります。それがシステム1とシステム2の相互作用です。共犯関係と言ってもよいでしょう。

カーネマンは次のように書きます。

システム2を決定づける特徴は、働かせるのに努力を要することである。ところがシステム2は怠け者という性格を備えており、どうしても必要な努力以上のことはやりたがらない。そこで、システム2が自分で選んだと信じている考えや行動も、じつはシステム1の提案そのままだったということが、往々にして起きる。

システム1は直感的な思考で、たとえば大きく顔を歪めた人の写真を目にしたときに、その人が恐怖しているとぱっとわかってしまうような機能を担当しています。そこには意識の介在はなく、「考えている」というような感覚もありません。「1+1は?」と聞かれたときも、計算せずにぱっと「2」が頭に思い浮かびます。

逆に、「45×15は?」と聞かれたときは、同じようにはいきません。少なくとも、ぱっと浮かんでくるのは「けっこう大きい数だろうな」くらいの感覚でしょう。この式の答えに辿り着くためには注意の制御が必要で、それを担当するのがシステム2です。

で、だいたいにおいて私たちが「自分だ」と感じているのは、システム2の領域なのですが、こいつが怠け癖があるのが大問題なのです。生物学的には、システム2はおそらくエネルギーを大量に使うことと、また周りに外敵がうようよいるときに考え込みすぎていると生存に適さないというような理由があるのかもしれません。

が、そういう話はまるっと置いておいて、システム2は怠け癖がある、ということだけを覚えておけばよいでしょう。そして、こいつは非常に巧妙です。要領の良い課長みたいにうまく仕事をサボります。それはもう舌を巻くぐらい見事に圧倒的です。

ちまたのビジネス書コーナーなりなんなりを覗いてみてください。システム2は仕事をしなくていいんだよ、と語りかけてくる本がやまほど発売されていますし、そのうちいくつかはよく売れているようです。システム2がサボってもいいことを、システム2がうまく納得できるような言説が溢れかえっているのです。複雑な注文とキックバックで利益を循環させ、売上げをかさ上げている企業の構図のようではありませんか。実に見事です。

でもって、セルフ・マネジメントの根源は、このシステム2の怠け癖との戦いだと思っておいて間違いはありません。というか、わざわざセルフ・マネジメントなるものが必要になるのは、システム2が怠け癖があるからなのです。

カーネマンもこれははっきり書いています。

システム2の仕事の一つは、システム1の衝動を抑えることである。言い換えれば、システム2はセルフコントロールを任務にしている。

そんなやつが怠け癖を持っているのです。つまりセルフマネジメントは、「嗚呼、弱きもの。汝の名は、人間」というスタンスから始めなければいけないのです。そこを勘違いしてはいけません。

人間というのは、根本的に結構ダメなやつなのです。だから、ダメダメな行動をしていても「俺はダメな人間だ……」なんて落ち込む必要はいっさいありません。「そもそも人間というものはダメな性質を持っているんだ」ぐらいの強気に出てもいいでしょう。その上で、「じゃあ、どうしたらそのダメさ加減を中和できるのか」と考えられれば前向きです。

が、しかし。

システム2は怠け癖があるので、「そもそも人間というものはダメな性質を持っているんだ」を怠ける理由にきっと使います。もうその姿が未来視のようにはっきり見えてきます。どうですか。実に巧妙でしょう。それくらいやっかいな構造と向き合うのがセルフ・マネジメントです。

ともかく、

「システム2は、サボりたがってるんだ」

ということだけは念頭に置いておきましょう。

ちなみにシステム1は直感的であり、それは環境に強く反応するものなので、本書を読めば「ありのままの自分」なるものがいかに脆いかがわかります。システム2を沈黙させている限り、素直さとは周りに影響されまくっている、というだけのことでしかありません。逆にシステム2をきちんと通した上での素直さは、いわゆる「自分らしさ」みたいなものにつながるかもしれません。

それにしても、システム2さえ黙らせてしまえば、「これは必要だ」と思い込ませるたびに財布の紐を緩められるのですから、物を売る方としたらこれほど楽な商売はありませんね。いやはや。

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