7-本の紹介

【書評】ウソはバレる(イタマール・サイモンソン、エマニュエル・ローゼン)

原題は『Abolute Value』、つまり「絶対価値」。

ウソはバレる
ウソはバレる

posted with amazlet at 16.06.27
ダイヤモンド社 (2016-06-20)
売り上げランキング: 18,312

どちらにしろ掴みにくいタイトルだが、ようは口コミが重要になっている時代におけるブランドの価値ってどうなの? という疑問に鋭利にメスを入れた意欲作だ。


著者らはマーケティングにおける定説を以下のように挙げ、

  • 企業のブランドは今まで以上に重要である
  • ロイヤルティを築くことがマーケターの日々の大事な仕事
  • 顧客はみんな不合理だ
  • 過剰な選択肢は人を麻痺させることがある
  • ポジショニングこそマーケティングの最重要課題

それらをばっさりと切り捨てる。かなり意味がなくなりつつあるよ、と。

考えてみれば著者らの指摘は頷ける。もはや家電を買うときに重要視されるのは、神聖視されるようなブランド名ではない。価格サイトでの検索順位やレビューの数である。

だとすれば、マーケティング予算を大量に投下してブランド価値を維持することにどれだけ意味があるだろうか。


もちろん著者らは、新しいマーケティングの世界が明日にはやってきます、そのときすべての常識が変わります、などとほらを吹いているわけではない。むしろ、彼らは自分たちの理論が限定的であることを注意深く指摘している。

たしかに私たちの前には、企業が提供しているのとは違う視点の商品情報があり、それを自分たちの商品選択に役立ててはいる。しかし、スーパーで歯ブラシの換えを買うときに、いちいちAmazonレビューをチェックする人はそう多くはない。たいていこれまで使っていたものか、そのときたまたま安い値札が付いているものを買うだろう。

そうした購買では、多様かつ大量の企業外の情報はそれほど意味を持たない。


著者らは、人々の購買行動の決定に影響を与える存在として、P(自分)、O(他の人々)、M(マーケター)の3つを想定し、Oが強い分野とMが強い分野が存在すると説く。

Mが強い分野では依然としてマーケティングの常識は通用する。しかし、Oが強い分野ではそうはいかない。顧客は多様に存在する情報を活用し、マーケターが意図したものをことごとく無視していく。

よくある心理学の実験がある。2種類のワインがあるとき、そこにもう一つ別のワインを加えると、被験者の選択が変わるというものだ。選択肢によって選好が変わるという意味で、これは「顧客の不合理さ」を示す事例だと紹介される。もちろん、その実験は正しいし、だとすればマーケターが選ばれやすい商品を作り出すために選択肢を工夫することも効果があるだろう。

が、現実の世界でそのような工夫はどれほど意味を持つだろうか。商品が陳列してある棚であれば、そのような選択肢の限定は可能だろう。しかし、レビューサイトや価格比較サイトではそうはいかない。そうしたサイトではいろいろな条件で商品を検索し、絞り込むことができるので、選択のコンテキストはマーケターの手にはゆだねられていないのだ。


以上のような商品についての情報環境の整備によって、「マーケターの道具箱」はことごとく機能不全に陥る。今と昔では、商品の選び方が根本的に変わりつつあるのだ。

では、マーケターはもはや不要なのだろうか。

著者らはその疑問に、慎重に横に首を振る。

第一にそうした情報環境がいまだ整備されていない分野もある。第二に、仮に整備されていてもユーザーがそれを使わない分野もある。先ほども述べたようにそうした分野ではいまだマーケターの役割は重要だ。ただし、ある日を境にテクノロジーがその環境を打ち壊す覚悟は必要だろう。ある日まで、ぐるなびやYelpは存在しなかったのだ。そして、登場してすべてを変えていった。

もう一つ、ユーザーがO(他の人々)の情報を重要視するならば、マーケターはそれに寄り添うこともできる。Oが発信しやすいように商品情報を整備したり、最初の関心を捕まえるためにイベントやクーポン配布を行うことも意味があるだろう。この辺りの話はベン・パーの『アテンション』とも関連してくる。

アテンション―「注目」で人を動かす7つの新戦略
ベン・パー
飛鳥新社
売り上げランキング: 1,929

もちろん、それはマーケターがお金を払ってOを雇い、「それらしいレビュー」を書かせればよい、ということではない。結局そうしたことをしても、情報環境が開かれている以上、「それらしいレビュー」は相対化されてしまい意味を失う。簡単に言えば、そう、「ウソはバレる」のだ。マーケターが自社のウェブサイトで商品について盛ってもバレるし、それをOにアウトソーシングしてもいずれバレるのだ。

だからこそ、話はシンプルになる。良い商品を作ること。そして、ユーザーにまかせ、ユーザーを追いかけること。現状、ウェブでうまくいっている商品やサービスはだいたいこういう形を取っている、そのような質を担保としたユーザー・ドリブンな姿勢にシフトできるかどうか。それが大きな鍵を握るのだろう。

ちなみに、「ブランド」の失墜ついては『権力の消失』の一部としてみることもできるだろう。このあたりも押さえておくと、より大きな視野で捉えられるはずだ。

権力の終焉
権力の終焉

posted with amazlet at 16.06.27
日経BP社 (2015-07-22)
売り上げランキング: 2,592

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です