5-創作文

レールのおり方 [先輩と後輩シリーズ]

「せんぱーい」
「ん?」
「あのですね、ちょっと相談がありまして」
「なんだ、言ってみろ」
「私に投資してください!」
「断る」
「ちょっ! 決断が早すぎませんか。もっと熟慮してくださいよ。三日三晩悩み抜いてから重々しく答えを口にしてくださいよ」
「別に嫌がらせで言っているわけではないぞ。シンプルに投資する価値がないと判断したまでだ。というか、だいたい投資じゃなくて金を貸して欲しいだけだろ」
「いいえ、投資です。私は起業することに決めたんです」
「貴様、また何か本を読んだな」
「な、なぜそれを」
「いいから、ちょっと見せてみろ」
「ダメですよ! これは私だけの成功法則なんですから」
「仮にも出資をお願いしている人間にその態度は何だ? ん?」
「……この本です」
「『レールの外れ方』────そうか、わかった。まあ、頑張れ」
「ちょっと、逃げるように立ち去らないでくださいよ。みんなそんな調子なんですよ。最初に相談したときは、「やった方がいい」「人生はチャレンジだ」なんて言ってたのに、投資を頼みに言ったら「ちょっと現実的じゃないよね、それ」とか「もっと実績を積んでからでないと」って渋るんですよ。どういうことですか、これ」
「まあ、そうだろうな。応援するのはタダだし、言っている方も気分は良くなる。だが、お金を出すとなれば話は別だ」
「だったら、批判する人の方が正しいってことですか。そういうのはよくないって、この本に書いてありましたよ」
「どうして貴様はそんなに思考がシンプルなんだ。関係ない立場から批判するのだってタダだし、気分も良いだろう。そもそも、そんな外野から何を言われても聞く耳を持たないんじゃないか」
「それはそうかもしれませんが……」
「本当に大切なのは、信頼できる人からの厳しいアドバイスだ。誰だって親しい人には厳しいことなんて言いたくない。関係を壊してしまうかもしれないし、口から出た言葉には責任が伴うからな。でも、それでも言っておくべきことがある、という思いで紡がれる言葉には価値がある。わかるか」
「なんとなくですが……。はっ! だから今先輩は私に厳しい言葉を投げかけてくれてるんですね」
「いや、俺様は思ったことを素直に言っているだけだ」
「わかりました。私、先輩の信頼に応えられるように頑張ります!」
「ひとの話を聞いているか? まあ、そういう楽観思考が起業には必要だがな」
「だったら、投資してくれるんですよね。500万、いや100万でいいです」
「断る」
「え〜〜〜〜〜〜〜、今の話の流れだと、即決でキャッシュをポンっと投げて、「出世払いだ」とか言ってクールに立ち去るところでしょ〜〜〜〜」
「それは俺様のキャラではないし、そもそも出世払いと投資は別物だ」
「似たようなもんですよ。さあ、今こそチャレンジするときですよ」
「貴様のチャレンジに俺様を巻き込むな。あと、最低でもその区別ができるようになってから、人にお金をせびれ」
「せびってなんかいませんよ! 投資を求めているんですよ」
「その、「かっこよく言い換えたら中身もかっこよくなる」的アプローチは今すぐ捨てろ。不愉快だ」
「別に良いじゃないですか。誰にも迷惑をかけていませんよ」
「迷惑をかけなければ何をしてもいい、という発想はどこから生まれたんだ。あと、その理屈だと、迷惑をかけることは何一つしてはいけない、ということにもなるぞ。だったら息を吸うことすらできなくなる」
「よくわかりません」
「まあ、いい。ともかく人が投資する対象は二つしかない。事業か、人かだ。魅力的な事業があるなら投資を検討してもいい。あるいは、その人物に可能性を感じるなら事業プランが雑でも投資する価値はある。が、貴様にはそのどちらもない。ノーマネーでフィニッシュだ」
「可能性はありますよ。人の可能性は無限大なんです!」
「言ってて虚しくないか」
「……言わないでくださいよ」
「万が一、貴様がどうしても成し遂げたいことがあったり、やむにやまれぬ状況でその選択をしたのなら、この俺様だって冷血というわけではない。ちょっとは考えただろう。が、今の状態ではダメだ。覚悟も責任もないような人間に金を託すのは、ドブに捨てるのと同じだ」
「だったら、私はどうしたらいいんですか」
「別に普通にすればいいだろう。その本にはそういうノウハウはまとまっていないのか」
「ぜんぜん書いてませんよ。というか、レールから降りる方法しか載ってないです」
「まあ、そうだろうな。その後は高額のセミナーにご案内、というわけだ」
「どういうことですか」
「追い込み漁だ」
「だから、どういうことですか」
「ダークオブソーシャルだ」
「何ですか、その中二病感溢れるネーミングセンスは」
「貴様! 誰が深遠なる闇を称える邪眼魔導士だ」
「誰もそんなこと言ってませんよ。というかそれこそ中二病ですよね」
「まあ、いい。ようは魅力的な事業プランを考えるか、コツコツ実績を積んで人間的な信頼を得るか、そのどちらかだろう」
「それができるんなら苦労しませんよ」
「レールを降りるというのは、苦労するということだぞ」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です