BlogArts

解放装置としてのブログ、あるいは「自分のメディア」について

一昔前、ブログは解放装置だった。

社会にはさまざまなしがらみがあり、個人の個性的な活動はそこでは行えなかった。ブログはそこに扉を開いた。さまざまな発信を行い、ときにはもう一つのペルソナ(=アストラル・アバター)と共に、ウェブ上に一つの居を構えることができた。

平たく言えば、そこは(社会に比較すれば)自由だった。やりたいことが、やりたいようにできたのだ。

もちろん、いくつかの禁則はあっただろう。公共の福祉を害することは褒められる行為ではなかったし、誰かの人格を攻撃する人間は、多少面白がられたとしても、話題の先端に上がることはなかった。ひらたく言えば、無視された。そんなことよりも、面白いものが他にいくらでもあったのだ。

状況は、変わりつつある。

現在のブログには、さまざまな「してはいけない」が存在している。もっと言えば「した方がいい」「すべきだ」すらある。驚きだ。

一時期は解放装置であったものが、人を束縛する装置と化している。本来__というよりも、その出発地点では、「してはいけない」や「した方がいい」から一番遠い場所にあったものが、あっというまにそれに近接し、寄り添うようになってしまった。どこでこんなことになってしまったのだろうか。


ブログは、一つのパブリッシュ・メディアであり、ブロガーはその編集長である。彼は、自分のメディアに関して最大の裁量を持つし、それを発揮しなければいけない。

CanCamの編集長が、JJの編集長に、「どうやって雑誌作ったらいいですか?」と尋ねるだろうか。あるいは、Smartの編集長が、現代思想の編集長に編集方針をコピペさせてもらうだろうか。

雑誌は、それぞれに編集方針を持つ。それが異なるからこそ、読者は雑誌を選べるのだ。他の雑誌の編集方針をコピーしていたら、まったく同じような雑誌が生まれるだけで、読者は困惑するだろう。最終的には一番人気の雑誌が、さらに人気を集めるだけかもしれない。富は、富へと集中する。

わざわざ、「自分のメディア」を「他にあるメディア」に近接させたい、もっと言えば模倣したいと願う気持ちはどこからやってきたのだろうか。

奇しくも先ほど「ウェブ上に一つの居を構えることができた」と書いた。それは自分の位置づけであり、言い換えれば自分の居場所作りでもある。そこにトラップが潜んでいたのだろう。

社会にはいろいろなしがらみがあると書いた。そのしがらみは、当然「してはいけない」や「した方がいい」という暗黙の、ときに声高な要請として表出する。

ウェブ上の人口が少なかったとき、そこは広い草原のようなもので、人々は遊牧民でいることができた。共同体のルールはあるにせよ、その範囲と影響力は非常に限定的だった。しかし、人が集まり、狩猟から農耕に移行すると、村という固定的な共同体が生まれた。社会の誕生だ。

つまり、ブログはその人口の増加と共に、社会化してしまったのだ。社会化したものの先には、しがらみが待っている。ウェブ上に一つの居を構える効果があることを考慮すれば、これは当然の帰結だったと言えるだろう。

もちろん、上記はまったくの幻想である。言い換えれば、ある種の幻想がもたらす帰結、ということだ。ウェブ上に「人口密集地」なるものは存在しないのだから、当然だろう。

すでにあるクラスタ、すでにあるブログ群に飛び込もうとするとき、そこには社会化の力学が発生する。一昔前のブログが、社会からの離脱(離反)だったのに対して、今のブログは、一つの社会から飛び出て、別の社会に飛び込む行為となっている。あるいは、そうした幻想が主流になっている。

つまりそれは、「自分のメディア」を確立する動きではなく、むしろそれを「私たちのメディア」の下位階層に位置づけようとする試みなのだ。雑誌の比喩を再び用いれば、それは新しいメディアを作ることではなく、新しい「〜〜Walker」を作ることに似ている。そこでは「してはいけない」や「した方がいい」は統一されていた方が望ましいだろう。編集方針のコピペは有用である。


一つの視点として、「お金稼ぎを目的としているから、金太郎飴みたいになる」と見ることもできるだろうが、もしそれが本当ならば、MicrosoftとAppleは似たような会社になっていないといけない。どちらもお金稼ぎを目的(ないしは目標)とした企業である。しかし、どう考えても二つの企業は似ていない。

つまり、お金稼ぎが目的であるかどうかは差異を生むかどうかの主要な条件ではないことになる。そうではなく、「自分のメディア」をどのように位置づけているのかが、差異を発現させる鍵を握るのだろう。

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