『勉強の哲学』のノート術 その3

前回:『勉強の哲学』のノート術 その2

アイデアの刺激剤

たとえば、私のEvernoteのノートブックの一部はこんな風になっている。

知的生産、マーケティング、サブカル批評、情報論、コンビニ、ショートショート、エトセトラ、エトセトラ。盛りだくさんである。

これらのノートブックは、近頃盛んに動いているものもあれば、しばらく触っていないものもある。しかし、しばらく触っていなくても、こうしてきちんと「履歴」が残っている点が素晴らしい。その気になりさえすれば、再びアイデアメモやら資料やらを見返すことができる。しかも、私はEvernoteを日常的に使っているので、「その気になる」可能性は低くはない。日常使いの中で、目に触れることがあるからだ。

『勉強の哲学』にはこうある。

勉強の哲学 来たるべきバカのために (文春e-book)

ノートアプリ内で複数のノートブックを管理していれあ、何かを三日坊主にしてしまっても、また戻ることができます。というより、むしろ積極的に三日坊主を利用して、目移り的=ユーモア的に、複数の専門分野を「横断的」に勉強することをお勧めしたい。

本の読み方に「併読」というものがあるが、それになぞらえるなら「併学」といったところだろうか。一つにズブズブと嵌りすぎることなく、軽快に分野を渡り歩いていく。三日坊主に積極的な意味が見出されている。

Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術

ここで二つ視点がある。まず、アイデアとは「既存の要素の異なる組み合わせ」である、ということだ。『ハイブリッド発想術』でもそれについては触れた。ある分野の知識と別の分野の知識を結びつけるとき、そこに新しい着想が生まれてくる。具体的な例については枚挙に暇がない。知識の組み合わせにこそ、アイデアの萌芽は眠っている。だとすれば、単一のノートアプリ内に複数の分野を集める行為はアイデア着想の刺激剤と言えるのではないだろうか。

T型人間からI型人間へ

ソーシャル時代のハイブリッド読書術

もう一つの視点は、『ハイブリッド読書術』で触れたT型人間からI型人間へ、という話だ。Tの字の縦棒は深い専門性を表し、横棒はそれ以外の分野の知識を表す。それを組み合わせた人間がビジネスで生き残る、というのがT型人間という概念なのだが、ご覧の通りTの字はひどく不安定である。よく直立できているな、と関心するくらいだ。本当はすごくふらふらしていて、今にも倒れそうなのかもしれない。そこで、I型人間である。

大文字のIは、Tの字の下にも横棒を持つ。それが安定性を支えることは疑いない。では、その下の横棒とは何だろうか。教養的知識である。人間全般にわたる、あるいはこの世界を視野におさめる広い知識。あるいは知識そのものに関するメタ知識。そうしたものが、「人間性」全般を支えてくれる。

ここで「教養とは何か」を論じる余裕はないが、『勉強の哲学』から少し引いておこう。

(前略)ともかく三日坊主で行ったり来たりすることは、幅広く知識を接続することであり、それが「教養」を形成するということなのです。

教養的知識とは、ある種の地図である。知識と知識の関係性を描いたものだと言っていい。それはつまり、知識を俯瞰する視点を持つとも言える。教養は常にメタに振る舞う。だから断片的知識を持っているだけでは教養的知識には至れない。それらを接続するための何かが必要である。どれだけクイズが得意でもIBMのワトソンに教養があるとは言えない。(擬人的に言えば)彼は個々の知識を有しているだけであって、それを俯瞰する視点を持たない、あるいは持つ必要がないからだ。

そして、その視点は、これまで書いてきた「私」という世界の相対化・多層化とピタリ重なる。知識の総量は別として、「私」を相対化し・多層化できている人には教養の素養がある。あるいは、下準備が整っている。

私たちは引っ張られる。重力に体を引っ張られるように、特定の分野、専門性に(大げさに言えば)魂を引っ張られる。教養的振る舞いとは、そこから遊離できる態度と言えないだろうか。

とは言え、非常に残念ながら、それには自然状態では得られない力が必要である。「ありのままの自分」では決してたどり着けない。重力に逆らうために大きな力がいるように、教養的振る舞いをするためにもそれなりの力がいる。その力を手にするのが勉強であり、知的生活であり、別の名前で呼ばれうる何かである。

さいごに

ノートについていろいろ考えてきた。

ノートは決して記録を残しておくだけのツールではない。それは、認知や認識にダイレクトに影響を与えるツールである。それはつまり「人生」を変えるツールであり、「私」を変えるツールでもある。

今、自分で書いていても大げさだな話だなと思うのだが、紛れもない事実なのだから仕方がない。

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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