やる気の波と日課のボリューム

ある日、思い立ちます。「そうだ、運動しよう」、と。

ジョギングでも腹筋でもラジオ体操でも何でもいいのですが、健康(ないし体重)のために運動をしようと決意したとしましょう。当然、思い描いているのは、一日限りの行動ではなく、これから毎日それを続ける生活です。つまり、それを〈日課〉とするわけです。

これは、まあ、悪いことではありません。日常に変化を加えることは、いろいろな面で喜ばしい要素があるでしょう。問題は、そのボリュームです。ジョギングは何分走りましょうか。腹筋は何回しましょうか。

ここで人間のバイアスがもろに出てきます。簡単に言えば、高く設定しすぎてしまうのです。ジョギングなら「1時間は走りたい」、腹筋なら「50回はやりたい」と。まあ、その時点では、問題はありません。「〜〜したい」と望むことは人間が持つ希望という大切な機能です。しかし、「〜〜したい」と望むことと、それが実際にできることはイコールではありません。希望と能力には乖離があるのが常です。

さらに言えば、たとえその日一日それができたとしても、それが継続的に実行できるかはまた別の問題があります。連続すれば疲れもたまりますし、都合の悪い日も出てきます。しかし、回数を決めようとしているときの自分は、そうしたことをほとんど考慮しないものです。やる気ゲージがMaxになっているときは、その時の自分をコピーして、次々に次の日に貼り付けていきます。それは、甘美な想像ではありますが、妄想でもあります。

そして、麗しい目標が設定されます。たしかに、それが実行できれば素晴らしい人生が待っているであろう目標が。しかしながら、どう考えてもその時点では現実味のない目標が。

高すぎる目標の弊害

高すぎる目標を設定してしまうと、実に興味深い現象が生じます。

たとえば、腹筋50回を目標にして、その日30回しかできなかったとしましょう。どんな感じがするでしょうか。そうですね。目標の未達なのですから、「失敗」という気がしますね。それはあまり心地よい感覚ではありません。

さらに、それが拡張されます。先回りされます。どういうことかというと、その日時間がなくて(あるいは疲れていて)30回しかできないな〜、というときには、そもそもそれをやりたくなくなるのです。なにせ、「失敗」が確定しているのですから、これはもうしょうがありません。

でもってこれが『「目標」の研究』でも書いた、目標が目的になっている状況です。

最終的に腹筋を鍛えることが目的なら、たとえ30回でも、やらないよりはやった方がよいでしょう。というか、一回でも(ゼロ回よりは)やった方がいいはずです。しかし、そのようには感じられなくなります。50回に至らずんば、実行にあらず、という感じになるのです。

結局やる気の波が一番高い初日、あるいは二日目くらいまでは実行して、残りの日は徐々に着手されなくなります。でもって、そのことは綺麗に忘れ去られていきます。その精神浄化作用は見事なものです。

日課作りの二つのアプローチ

一回限り何かをすることと、それを日課として継続していくことには、大きな隔たりがあります。前者は比較的簡単です。なにせ「鉄は熱いうちに打て」という言葉があるように、モチベーションが高まっているときは、少々の無理でも融通でも効くからです。

が、明日以降、それがどうなるかはわかりません。でもって、高すぎる方向に設定された目標は、むしろ行動を阻害します。

この問題を解決するには、二つのアプローチがあります。

  • どう考えてもこれはできるでしょ、というラインを最初の目標とする
  • 実行した結果を記録することを目標(課題)とする

前者は簡単です。「腹筋を一回する」を目標とするのです。あるいは「腹筋をしようと仰向けに寝転がる」を目標としてもいいかもしれません。これならば「失敗するかもしれないから」という抑圧は(かなりの程度)生じません。で、実際にやってみたら数回は取り組んでしまうものです。

で、実際に仰向けに寝転がることが習慣化してきたら、もう少し最低ラインを引き上げてもいいでしょう。その場合でも、徐々に引き上げるのが効果的です。

ただし、これは無茶苦茶地味な方法であり、しかも、「腹筋を一回する」を目標にするなんて、ひどくバカバカしいと感じられてしまうかもしれません。そこで、視点をぐるっと変えます。

「○○回する」を目標にするのではなく、「その日実行した回数を記録すること」を目標とします。こうすると、目標の設定に数値目標が絡んできません。つまり、ボリューム的な失敗の可能性が皆無になります。行動の心理的障壁が薄まる、ということです。

同じような効能は、「毎日腹筋する」という目標でも生じるように思えます。が、こういう漠然とした目標は、徐々に実行されにくくなっていくものですし、「自分はこれをやっているんだ」というような達成感(あるいは現実感)を構成しません。数字を記録していくと、着実に何かが残ります。さらに、「平均的にこれくらいなら実行できるな」というのもログから算出できるようになります。これは現実的な〈計画〉を設定する上で役立つことは、『タスク管理の用語集』でも触れました。

〈記録〉作りを目標とするなんて本末転倒ではないか、と思われる向きもあるかもしれませんが、人間のバイアスを考えれば、案外このバイパスの方がうまくいったりするものです。

結局、やろうとしている行動が増えるのかどうかだけが肝であり、そのためならば、利用できるものは何でも利用してやろう、くらいの気持ちでやってみた方が──少なくとも高すぎる目標を設定してそれで満足してしまうよりも──達成できる可能性は高まるでしょう。

▼こんな一冊も:

タスク管理の用語集: BizArts 2nd
(2017-06-27)
売り上げランキング: 199
「目標」の研究
「目標」の研究

posted with amazlet at 17.07.03
R-style (2016-12-11)
売り上げランキング: 19,806
Related Posts with Thumbnails
Send to Kindle
Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です