発想法の日常的効用

発想技法を身につける理由には二種類あります。

一つは、いわゆる「クリエイティブな仕事」のため。そうした仕事では、新しいもの・ことを生み出すのが仕事そのものなわけですから、新しい発想を生み出す技法は、いわば基本であり、必須のものと言えるでしょう。

しかし、だからといって、「クリエイティブな仕事」についていない人にとって発想技法がまったく役に立たないかというと、そういうわけではありません。結局のところ、アイデアとは問題解決だからです。

何か問題が発生したとして、それが既存のアプローチで解決できるなら、それは問題とは認識されないでしょう。靴下に穴が空いたら、繕うか新しいのを買えばよいだけであり、「靴下に穴が空いたこと」は問題にはされません。それが問題になるのは、そのどちらもできないような場合です。言い換えれば、既存の(あるいは手持ちの)アプローチでは状況を改善できないときです。

つまり、問題解決のためには、常に新しいアプローチが必要です。これまでのやり方とは何かしらの点で違ったアプローチを用いない限り、問題は問題として残り続けます。

この場合、別にその「新しさ」は、この世界でまだ誰も発見していない、という類のものである必要はありません。そうした「新しさ」は、クリエイティブな仕事では必要とされるかもしれませんが、問題解決ではどっちだっていいことです。ようは、そのときの自分が射程に捉えているアプローチ以外のアプローチを用いれるかどうか、というのがポイントなのです。

だから、世界的視野で見れば、二番煎じでも三番煎じでも構いません。単に、今の自分が今までの自分とは違ったアプローチで、問題に迫れるかどうかが重要です。でもって、それを提供してくれるのが発想技法です。

人は習慣の生き物であり、あらゆるものに慣れていきます。脳の日常化作用は相当強いと考えてよいでしょう。そこでは、釘は常に金槌で打たれ、金槌は必ず釘を打つ道具として扱われます。既存の課題に、既存のアプローチでトライするのが当たり前の世界なのです。だから、それが通じなくなったとき、問題が露呈するわけですが、たちの悪いことに、私たちはその状況にも慣れてしまいます。問題が解決できない状況が日常となり、それは問題とはされなくなります。

「問題が解決できない」がいつのまにか「それは解決できない問題なのである」と認識がすり替わってしまうのです。

だからこそ、発想技法では、まず問題を問題として認識し直すことが最初に必要で、その次に既存の認識の中で結び付いている「Aという問題→Aというアプローチ」の鎖を断ち切って、新しいアプローチを求めることが求められます。その意味で『アイデア大全』の構成は非常に適切だと言えるでしょう。

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思い込みの強い人というのは、だいたいこの「Aという問題→Aというアプローチ」の鎖がものすごく強く結びついていて、新しいアプローチを自発的に模索することをしないだけではなく、誰かが新しいアプローチを提案してくると、強固なまでに反対する姿勢を見せたりもします。たぶん、それは自分の認識の一部を壊される恐怖から発せされているのでしょう。部分的ではありますが、他者からの自己否定だと捉えられるわけです。

発想技法に習熟してくると、自分からその鎖を壊すようになってくるので、あまり他者からのそれは気にならなくなります。それは、建設的な話し合いをしていくうえで、大切な土台にもなります。

総じて言えば、発想技法は「新しいアイデアを求める」ためだけのものではありません。もちろんその役にも立ちますが、むしろそれはある種の自由さを手に入れるための技法でもあります。でもって、その自由さはかなり高い確率で問題解決に役立ちます。

でもってこの話は、『勉強の哲学』で語られる言葉を道具として認識する(言葉そのものとその意味は分離可能である)ことや、『人はなぜ物語を求めるのか』で語られる人が生きることとその意味(物語性)は置換可能であることと強く呼応しています。というか、基本的には同じ話です。

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ある種の(認識内での)結びつきがあり、それが固定する。その固定は、人格に対して一定の安定感をもたらしてくれるが、その固定が強くなりすぎると変化に対応できなくなる。だから、ときおりその結びつきを切断し、新しいものと接続し直す。

その繰り返しが可能であることを、自由と呼ぶことができるのかもしれません。それは結構大切なことです。

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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