タスク前駆体

実際例から話を始めよう。

あるとき、「モバイル版でフルスクリーンモードを起動できるようにする」と思いついたとする。とりあえず、それをどこかのツールに書き留めておく。時間があるときに、後で実行すればいい。

これはこれでシンプルな話なのだが、それで終わらないのが人間の頭のやっかいな点である。書き留めた直後ではなく、そのしばらく後にいろいろなことを思いつく。

どれも「フルスクリーン」を共通項(タグ)にしたタスク前駆体である。

タスク前駆体

タスク前駆体とは何か? タスクになる前の情報のことだ。

たとえば、やるべきことであるのは確定しているのだが、誰が実行するのか、いつ実行するのかが曖昧なものがそれだ。それは自分がやらなくてもいいかもしれない。あるいは来年でもいいかもしれない。こうしたものは、いつかどこかではタスクになるにせよ、その時点ではタスクではない。

あるいは、具体的な行動ではなく、達成すべき状態のこともある。先ほど出てきた「モバイル版でフルスクリーンモードを起動できるようにする」は一見タスクのようだが、実際それをどのように実装するのかが明示されていないので、これもタスク先駆体である。

また、あるタスクの成否如何によって、タスクになるかどうか決まることもある。例を引き続き使えば、「モバイル版でのフルスクリーンモード」は、キーボードショートカットで起動するのが望ましいのだけれども、その実装が難しいようならば専用のボタンをつけることになる。その場合は、ボタンを追加するコードを書くことになるし、おそらくはモバイル版でのデザインを変更しなければならないだろう。が、その時点では、これらはタスクになるかどうかはわからない。案外すんなりとキーボードショートカットが実装できることもある。

最後に、これはやっておいた方がいいかもしれない、という思いつき(アイデア)もタスク前駆体である。あるいは「こうしてみたらどうか?」という曖昧な予感もまた、タスク前駆体になりえる。

上記のものたちは、「直接実行できる行動」ではないという意味においてタスクではないが、状況如何によってはいつでもタスクになりえる(あるいはタスクを生み出す)可能性を秘めている。それがタスク前駆体である。

タスク前駆体の扱い方

情報管理の原則から言って、タスク前駆体もメモ(記録)しておく必要がある。GTDでも「気になること」をうまく処理せよ、と教えられる。もちろん、タスク前駆体の多くは「気になること」であるからして、inboxに放り込むのがよいだろう。

問題は、そこからの扱い方だ。

タスク前駆体は、独立して存在するものもあるが、そうでないものもある。例に挙げたのは「フルスクリーンモード」という共通項を持つものたちであった。関連している、ということだ。言い換えれば、相互に影響し合う存在同士である。たとえば、すでに実装が確定している機能があるとして、そこに「〜〜したらどうか?」というタスク前駆体的アイデアが結びつくと、実装する機能そのものがバージョンアップすることもある。タスクが変わるのだ。

あるいは、「本棚を整理したい」と「押し入れを整理したい」という別物に見える(≒明示的なキーワードが見つからない)タスク前駆体であっても、「本棚の本を押し入れに入れたらどうなるか?」という一つの閃きによって、急激に関連性が発生する。もちろん、本棚の本を押し入れに移動させれば、押し入れの整理プランは刷新されることになるだろう。これもまたタスクの変容を促す。

タスク前駆体は、連動し、蠢いているのだ。

タスク前駆体を扱うツール

「Bulletと知的生産」の記事で、「タスクリストに記載される前段階で情報的操作が活発に行われる」と書いたのは上記の話である。だからこそ、アウトライナー的なツールがタスク管理の一領域において機能するし、またワンアウトラインの思想が役に立つ。

タスク前駆体は、入れ替わり、組み変わり、分断され、新しく結合する。編集されるのだ。よって、なるべくは断片を扱えるツールが望ましい。アウトライナー(あるいはそれと軌を一にするツール)は最適であろう。

付け加えるなら、この点においてEvernoteは少々不自由である。組み換えも難しいし、結合も使い勝手はあまりよくない。確定したタスクを扱うなら問題ないが、タスク前駆体の取り扱いでは、かなりの工夫が求められる。それでも、「すべてを一つに保存する」というツールの思想は、多様なものが混ざり合うタスク前駆体の引受先としては最適であるとは言える。

さいごに

一般的なタスク管理ツールでは、タスクはタスクとして扱われ、タスク前駆体の一部はプロジェクトとして、残りはメモ(あるいはnote)として扱われている。しかし、「もし〜〜だったら、××する」のような条件分岐はほとんど実装されていない。私たちの頭の中には、そのif文はたしかに存在するにもかかわらず、だ。これはもしかしたら、ある種の不備と言えるのかもしれない。

もちろん、重ねて書くが、上記はいわゆる「実行の段階」ではむしろ邪魔に働くことが多い。気が散りやすい人ほどそうだろう。実行の段階では、タスクだけ、それも今日行うタスクだけが表示されているのが望ましい。このあたりの「思考の蠢きと認知資源の節約」をいかにバランスするかが、案外これまでのタスク管理では考慮(統合)されていなかったことかもしれない。

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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