【書評】『ライフハック大全』(堀 正岳)

ライフハック大全―――人生と仕事を変える小さな習慣250

著者のメッセージはシンプルである。

「小さなことを繰り返すことで、大きな成果が得られる」

繰り返される小さなこと、つまり小さな習慣が人生を変える。むしろ、もっと強調して言ってもいいだろう。つまり、小さな習慣だけが人生を変えうる、と。

You can change your life only by small habits.

英語にしたのは恰好をつけるためではない。「変える」という言葉の意味を明確にしたかったからだ。

人生は、変わる。変わってしまう。変えられてしまう。自らではどうしようもない出来事、突発的なトラブル、予想外の厄災。そうしたもので否応なしに変化してしまう。だからこそ我々には文学があるのだが、しかし状況に流されるだけが人間存在ではない。何かを変えうるもの。意志を持つもの。それが人間である。

単に変わるのではなく、ある方向に向かって変えること。それが意志であろう。

とは言え、その意志は屈強な戦士ではない。英雄からはほど遠い。最近の脳神経学の知見を参照しなくても、我々の日常生活をありのままに眺めれば、ひとりの人間全体に対して、意志が介在できる余地は極めて小さいことがわかる。意志は、自分すべてをコントロール下におくことはできない。

だからこそ、小さな習慣なのだ。

我々の意志というものが、自分にアクセスできる限定的なプロトコル、あるいはメソッド。それが小さな習慣なのだ。そのくらいの領域ならば、私たちの意志はその力を発露できる。そしてその発露は、水がジワジワと染みこんでいくかのように、あるいは再帰関数が何度も呼び出されるかのように、全体へと、あるいは大きな構造へと波及していく。単利ではなく、複利が生まれる。

ライフをハックするための、たったひとつの冴えたやり方だ。

もう一つのメッセージ

とは言え、小さな習慣の効果は、最初はとても小さい。目に見えないと言ってもいい。人間はフィードバックによって行動を最適化するのだから、見えない成果は継続の助けにはならない。以前の記事でも書いたが、これが〈小さなこと〉がくだらなく、つまらなく見える理由であり、継続が困難な理由でもある。

だからこそ、著者のもう一つのメッセージが大切になる。それは何か。

著者は冒頭で、近年のライフハックが効率化や生産性を求めるあまりに、「人生をもっとラクにしよう」「もっと楽しくしよう」というメッセージが薄れてしまったことを懸念している。そして本書の冒頭と末尾には、あるメッセージ(というよりも合い言葉)が添えられている。

“Happy Lifehacking!”

これは、著者が10年以上続けているブログの記事にもよく登場する言葉である。著者が大切にしているメッセージなのであろう。

楽しいことは続けていける。単純な話だ。でも、まさにそれこそが肝なのだ。

〈小さなこと〉は、フィードバックが即座に返ってこない。継続は難しい。でも、その行為そのものが楽しければどうだろうか。たとえうまくいかなくても、積み木で遊ぶ子供のように手を変え品を変え、チャレンジするのではないか。

本書には、9つのセクションにわけた250個ものライフハックが登場する。デジタルからアナログまで、古典から最新ITまで、攻めから守りまで、非常に多岐にわたっている。集大成と言ってもいいだろう。もし、そのリストを目の前にして、「よし、これらを身につければもっと人生が豊かになる」と、あたかも修行のように、鍛錬のように、荒行のように思ったとしたら、そういう感じ方はまるっと捨てた方がいい。その態度こそ、もっともライフハックらしくないものだからだ。少なくとも、楽しくはない。

お偉い師匠が提示した苦難を乗り越えた先にこそ、達成がある、というような考え方は、ぜんぜん楽しくない。道中は苦痛だらけである。その苦痛を自ら選んで(むしろ喜んで)引き受けているならば別に構わないが、そうでなければ何のためのライフハックなのかまったくわからなくなってしまう。

「小さなことを繰り返す」や「小さな習慣」という言葉は、「継続は力なり」という言葉と結びついて、「ともかく続けさえすればいい」「道中は継続のために我慢を続けなければならない」という印象を抱かれがちである。しかし、我慢をできるだけ小さくしていくことがライフハックではなかったのだろうか。その原点を忘れないためにも、”Happy Lifehacking!”というメッセージは大切にしたいものである。

さいごに

ある種の人たちは(いわゆるライフハッカーと呼ばれる人たちは)、本当に楽しそうにツールを使い、工夫を凝らし、テクニックを開発している。あたかもそれ自身が目的なのではないかと勘ぐりたくなるが、おそらくそれは何割かは真実を含んでいるのであろう。でも、それでいいのだ。結果として何かが変わるようなことが生じているのであれば、多少の自己目的化も悪くはない。

だから本書はまず目次を眺めたり、ページをパラパラとめくったりしながら、「面白そうだな」「楽しそうだな」と思えるものから取りかかってみるのが一番だろう。さすがにこれだけ網羅されていれば、アンテナにひっかかるものが何か見つかるはずである。あとはそれを最初の一歩にすればいい。

Happy Lifehacking!

▼目次データ:

SECTION0 始めよう「人生を変える7つのライフハック」
SECTION1 時間管理「時間は増やせる」
SECTION2 タスク管理「小さな勝利を積み重ねる」
SECTION3 集中力・ストレス対策「やる気も仕組み化」
SECTION4 読書・情報収集・学習「情報は減らして管理する」
SECTION5 発想・アウトプット・思考「自分だけのアイデアがある」
SECTION6 コミュニケーション&チーム「味方は増やせる」
SECTION7 日常生活・旅行「ちょっとした快適さを」
SECTION8 習慣化・やめない技術「人生を変える小さな習慣」

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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