【書評】『問題解決大全』(読書猿)

まず最初に断っておくと、本書は大全である。

問題解決大全――ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール
読書猿
フォレスト出版 (2017-11-19)
売り上げランキング: 104

さまざまなジャンルから、広い意味での「問題解決」の技法が収集されている。意思決定、意見の集約、最適化、行動のデザイン、エトセトラ、エトセトラ……。よくまあこんなに集めたな、と感心してしまうのは、前著に引き続いての感想だ。

しかし、本書は大全ではあるものの、大全的なものからは、0.25歩くらいはみ出している。

たとえば、四角い大きな箱があり、そこに必要なものが一揃いしているのが大全だとしよう。その箱から、うにょうにょといくつもの線が伸びているのを想像してほしい。それが本書だ。その線を首の後ろのコネクタに接続したら、新しい世界へと導かれる。

簡単に言えば、問題解決について大全的にまとめてあるのだが、問題解決についてだけ書かれているわけではない。それが本書の0.25歩分である。

多重構造による擬態

本書は、擬態している。あるいは、トロイの木馬と言ってもいい。強調して言えば、「実用書風」なのだ。

極めて簡潔にまとめられた問題解決の手法(レシピ)は、実用書としての役割を十分に果たすだろう。しかし、全体のボリュームで見れば、〈レシピ〉に割かれているページはそれほど多くない。むしろ、その技法に関する〈レビュー〉が「我こそが主役なり」と言わんばかりにページを占めている。

とは言え、そうしたレビューを読む必要はない。なんならレシピだけを読んでもいけるし、それだけでも十分に「役立つ」だろう。だからこそ、本書は実用書・ノウハウ書としても機能する。あくまで、表面的には、だ。

しかし、その内蔵は、もっと濃密で、濃厚で、いっそエグいものすらを含んでいる。読者は、それをたっぷりと堪能することもできる。ようするに、二重にも三重にも読めるのだ。

このように多重に読める構成は、たとえば『数学ガール』シリーズを想起させる。このシリーズは、第一に青春物語としても読めるし、第二にきりっとした数学物としても読める。前者は誘い手となり、後者は深い階層への導き手となる。読者は好きなように、「読み方」を選択できる。

現代において、ある層に、ある情報を伝えるためには、このような多重構造が必要なのであろう。一見「〜〜風」だけれども実は……、という擬態だ。あるいはもうそれは擬態ではないのかもしれない。それぞれが、ひとつひとつに真なる姿なのだ。

知を違った形で

アカデミズムが、あるいは何かしらの権威が、その権威性を保持したまま、知識を伝えるというような「啓蒙」を志す限り、その権威(あるいは権威性)に反発する市民に、知識が伝達されることはない。言外に「こういうことも知らないお前たちはバカなんだ」というメッセージが、においのように漂うからだ。もちろん、あらゆる悪臭と同じように、当人がそのにおいに気がつくことはない。

かといって、ほとんど内容を歪曲しかねない勢いで「わかりやすく」伝えると、今度はそうした知識や情報が持つ奥深さや複雑性が失われてしまう。あの恋い焦がれるような憧れは、そこでは決して生まれない。

たとえ学閥が持つ権威が欺瞞であっても、人類が積み上げてきた知が持つある種の(あるいは限定的な)神々しさは本物であり、その魅力と怪しさは、「わかりやすく」する中で、見事に損なわれてしまう。

本書が目指すのは、違ったアプローチだ。

まず本書は、まったくもって実用的に役立つ。網羅性もそうだし、〈レシピ〉の簡潔さもそうだ。技法についての解説も、きちんとその技法が持つ問題点を指摘している。ある種のノウハウ書は、まるで紹介する技法が神から授けられたものであるかのように絶対視するが(そうでもしないと売れないのだろう)、本書は技法の短所を踏まえた上での「使い方」を提示している。さすがにこの本を読んで、技法を神聖視する人間はいないだろう(※)。
※神聖視の対象が、著者に向かないようにすることも大切だろう。

それでいて本書は、背景を語る。周辺を語る。それとは違う知をそこに継ぐ。

利便性という入り口を設けておき、しかし、その奥にはきちんと地下に降りていく(あるいは塔を上っていく)ための扉が設置されている。しかも、まったく読めないほど難しくもなく、かといってしょーもないと切り捨てられるほど簡単でもない。なかなかのバランス感覚だ。

ただし、本書は前作より実用的でありながら、むしろ前著より難しい部分が増えているように感じた。

前者については、問題解決そのものがアイデア(≒発想法)よりも実用的である__むしろ大抵のアイデアは、現実的な問題解決のために要請される__からだろうし、後者は一つひとつの技法の掘り下げがよりディープになっているからだろう。そのことは、紹介する技法が42から37に減っているにも関わらず、総ページ数が336ページから416ページに増えていることからもわかる。

その意味で、まず『アイデア大全』からこの知的トレーニングに参加した人は、本書ではさらに負荷の高いそれに参加することになるだろう。ステップバイステップである。

もしこの階段の設計すらも著者の織り込みなのだとしたら、いったい三作目はいったいどうなってしまうのだろうかと心配してしまう、というのは嘘で、すごく期待してしまう。

さいごに

ノウハウ好きな現代の私たちは、ノウハウを欲する情動に突き動かされ、情報を漁る。本書はそこに、濃密な情報に触れる機会を絡ませる。

人によって、どちらの情報が本書の「骨子」になるのかは変わるだろう。だからこそ、本書はトロイの木馬足りうるのだ。

と、今回は、本書の技法内容には直接触れず、本書の位置づけを中心に紹介してみた。技法内容については、また改めて機会を設けて書いてみたい。

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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