正直「情報整理ツール」という言い方も、「メモツール」という言い方もしっくりこないのだが、現状代替となる言葉が引き出しに入っていないので、この名前でいくとする。
とりあえず、雰囲気は伝わるだろう。情報をなんちゃらするツールや、思いつきをなんちゃらするツールの話である。
検討の三要素
これまでの探求でわかったことは、メモツールで検討すべき要素は以下である。
・インとアウト
・項目の操作
・デフォルトビュー
それぞれみていこう。
インとアウト
「イン」とは、メモの作成のことである。これはなるべく自由度が高い方がよい。思いつきは、場所を選ばずやってくるので、それらを掴まえるためには、入力は限定されない方が望ましい。
また、思いついた段階では、それが何なのかはわかっていないので、フォーマットを先に指定できないと入力できないメモツールは非常に使いにくい。つまり、アプリを起動→「アイデア」を選択→入力を開始、というのでは駄目なのだ。何かを入力した後で、それを「アイデア」に割り振る、といったアプローチの方が適切である。
「アウト」は、メモの利用のことである。これは「イン」と関係してくる。「イン」の入力を限定しないと、だいたいにしてメモは散らばってしまう。すると後からの利用は難しくなる。だからこそ、「一元管理」が生きてくる。
本来的には、たった一つのツールだけに「イン」して、そこから「アウト」するようにすれば完璧だ。しかし、脳はそんな状況を考慮して思いつきを制御してくれたりはしない。私たちは、そのわがままブレインと付き合っていかなければいけない。譲歩するのは、私たちのツールや運用である。
よって、いくつかのツールでメモを作成するにはせよ、最終的にはそれを一つの場所で保管しておくのが望ましいだろう。その際も、中心となるツールは決めておき、そこで補えないものを別ツールで記録し、その記録を後からメインとなるツールに移動させる、という形を取った方が効率的ではあろう。
インとアウトの重なり
話はそれだけで終わらない。
ツールの限定による一元管理と、多数のツールの重ねあわせによる多元式一元管理には異なる要素がある。前者を大学ノート、後者をEvernoteとして考えてみよう。
ノートの入力においては、必然的にそれまでの記録にアクセスすることになる。最新ページにしおりを挟んでおけばショートカットが可能ではあるが、過去の記録が「そこにある」ことにはかわりない。
しかし、複数のツールからEvernoteにメモを集めるような場合は、そうしたことにはならない。たとえば、極めて便利なEvernoteメモ送信アプリFastEver 2 では、アプリを起動したら即座にメモが入力でき、ボタン一つでそれを送信できる。その背後に、過去のメモが控えている、ということはない。
こんな違いは、たいしたことがないように思える。扱う情報が、アイデアと呼称される未定型の情報でないのならば、そうだ。そうした情報は、静的に沈黙しているので、そんな風に扱ってもなんら支障はない。
ただ、アイデアと呼ばれる情報たちは、息をしている。闇の奥で手ぐすねを引いて私たちに触発されるのを待っている。あるいは、私たちを触発しようとしている。どちらも同じことだ。
単に保存しておいて必要に応じて引っ張り上げるのとは、違う扱い方がアイデアと呼ばれる情報には必要である。その点において、インとアウトに重なりがあること、言い換えれば、インするときに過去の記録が目に入ることは一つの大きな利点である。
これは、アウトライナーのような使えばより顕著に感じられるだろう。アウトライナーでは、項目はどこかに位置づけなければいけない。その位置を探す行為そのものが、一種の知的作業なのである。だから、しばらく眠っていたアウトライナーの中身を別のアウトライナーにインポートして「整理」したときに、すごくすっきりした感じがするはずである。それは過去の情報が改めて「目に入った」からであるし、それを操作したことが知的作業であるからだ。
何を「目に入れるか」、どこに「位置づけるか」は、軽く扱ってよいことではない。
項目の操作
さて、次の話に移ろう。
項目の操作は、一番注目されやすい要素である。とは言え、操作にもいくつかバリエーションがある。
たとえば、「編集」だ。ボールペンで書いた文字は消せない。ツイッターのつぶやきは修正できない。こういうのは、メモとしてはすこしばかり扱いにくい。特にそれがアイデアと呼ばれる情報ならばなおさらだ。
また、移動も重要な操作である。おそらく以下のような移動がありうるだろう。
・Move
・Merge
・Split
・Delete
これらの操作ができた方が、できないよりもはるかにメモを扱いやすくなる。必須とまでは言えないが(もし必須なら、アナログノートでアイデアメモを管理している作家の説明がつかない)、あった方が手間は少なく、認知的負荷も減少するはずだ。
さらに、特殊な二つの操作もある。
・階層化
・リンク
前者はアウトライナーを、後者はwikiをイメージしてもらえばよい。
これらの実装の仕方は、ツールごとにさまざま違い、それがツールの特徴を形成していると言っても過言ではない。
WorkFlowyは、(ほとんど)無限の階層と個別項目のURL、それにハッシュタグ機能と盛りだくさんである。Evernoteは、階層化は極めて貧弱だが、ノートリンクはある。Scrapboxは階層化を破棄しており、代わりにリンク機能が非常に充実している。
このどれがアイデアを扱うのに適しているのか、というのをここで断定することはできないが(なぜなら、「アイデアを扱う」という状況にもいくつかのパターンがあるから)、ともかく違いがある、という点だけは強調しておきたい。どれも、クラウドで一元管理的なシステムだが、使用感は大きく違う。当然、アイデアの扱われ方も変わってくる。その点は留意が必要だ。
最後にもう一つ、「検索」という操作があるのだが、デジタルはだいたい同じであり、アナログはまったく無理なので──自分でindexを作る必要がある。ああ、なんという無情か──、ここでは割愛しておく。
デフォルトビュー
さて、三番目の要素だ。
あんがい見過ごされやすいのだが、「デフォルトビュー」で何を表示するのか、という点も実は大きいのである。これは、インとアウトの話にも関わっている。
「デフォルトビュー」は、アプリの起動時に表示される画面である。それはつまり、メモを「イン」するときにも、「アウト」するときにも目に入る画面、ということだ。単純に考えて、一番接触回数の多い画面である。そこで何が表示されるのかは、やはり軽い要素ではない。
たとえば、このブログは少し前にデザインとトップページの構成を変えた。中身(テキスト)はまったく変わっていないが、最初にトップページを訪問した人の、その後の行動はさまざまであろう。昔のデザインならば、ほとんど強制的に「最新の更新」を読まされる(≒目に入る)。今のデザインなら、直近の記事や、他の記事のタイトルが目に入る。最新の更新は読まないかもしれない。
WorkFlowyとScapboxは、この点で実は少なくない違いがある。
WorkFlowyは、常に全体の構造が示される。Scapboxは、十数枚のカードが、十数枚のカードだけが目に入る。そして、そのソート方法は任意で選べる。個人の利用で一番便利なのは、「Date modified」(更新日順)だろう。このソート方法を選んでいると、ようするに野口悠紀雄の「押し出しファイリング」が実現可能である。WorkFlowyでそれをやろうと思えば、操作や編集のたびに自分で項目を上に移動させなければいけない。便利か不便で言えば、不便だろう。
言い換えれば、Scapboxは入力(操作)のたびに、動的に(広い意味での)構造が再編される。WorkFlowyではそれは起きない。任意の操作が必要である。むろんそれにはメリットもあって、極めて狭い領域にしか通じない表現を使うことを許して頂けるならsageられるわけである(※)。
※編集はするが、それを上位に表示はさせない、ということ。
sageられるかどうかが有効なのは、おそらく「不純物」が混ざってくるかどうかが関係しているはずである。比較的純度の高いもの(雑多さがある程度の範囲で納まるもの)であれば、sageる必要はない。しかし、そうでないならsageるもまた必要になってくる。
Eernoteでは?
では、ここまでまるっきり無視してきたEvernoteはどうであろうか。Evernoteも「更新日」順で並び替えられるし、私もその並び替えを常用している。だったら、Scrapboxと同じように扱えるか、というと、二つ問題がある。一つは雑多さが非常に拡大しやすいこと、もう一つはそれに関連してノートブックによる切断が行われることである。
使い方にもよるが、Evernoteは「なんでもメモ」である。そこには雑多なメモやクリップが集まる。すると、常時目にしたいわけではない、言い換えればアイデアでないものもどんどん上位に表示されることになる。だからこそ、Evernoteにはノートブックという切り分けがあるのだが、たいていの場合、「inbox」と「アイデア」というノートブックは分離される。つまり、インとアウトが分かれてしまう。
inboxを表示しているときは、新規メモは目に入るが過去のアイデアメモは目に入らなくなるし、アイデアノートブックを表示しているときは、その逆が起こる。
もちろんこれは、運用で片付く問題だ。つまり、新しいEvernote運用のアイデアがそこには眠っているわけだ。
さいごに
今回はメモツールについて考察してみた。これで本が一冊くらい書ける勢いではあるが、今回はここまでとしておこう。
一つ言えるのは、アイデアを扱うのは、その他の静的な情報を扱うのとは違ったアプローチが必要ということで、それは当然アイデアとはどのように扱われるのがよいのか、という視点が関わってくる。
機会があれば、またそのことも改めて書いてみたい。
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