【書評】『アルゴリズム思考術』ブライアン・クリスチャン& トム・グリフィス

最初に言っておくと、ライフハック的な分野に興味を持っている人なら、間違いなく何かしらアンテナに引っかかる本である。逆に、「根性で頑張る」「完全な解法をあなたに」的なものが好きならば、本書はお気に召さないだろう。

アルゴリズム思考術 問題解決の最強ツール (早川書房)
早川書房 (2017-10-31)
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帯には野口悠紀雄氏の推薦文があったので、おやっと思っていたのだが、それもそのはずで、本文には超整理法への言及がある。アルゴリズム的に、なぜ超整理法がうまくいくのか、その他の整理法と比べてどれだけ有効なのかが分析されている。海外からの翻訳本で、日本人の名前やそのノウハウを見かけることはずいぶん少ないので、これには驚いた。オリジナリティーあるノウハウだったということだろう。そういう発見は案外嬉しいものである。

さて、本書のタイトルは「アルゴリズム思考術」とあるが、考え方のノウハウと言うよりも、むしろ問題解決ツールの提供という色合いの方が濃い。むろんその問題解決ツールだって、ようするに「考え方」のことであるのだから、タイトルが間違っているわけではないが、「頭が良くなるための本かな」と期待して手に取ると、少し肩すかしを食らうかもしれない。

が、逆の意味で本書は「頭が良くなる」本だとは言える。

本書では、最適停止や探索と活用など、11にも及ぶ問題が言及されている。それぞれは、コンピュータが直面する問題と私たちが直面する現実的問題が交差するように書かれていて、知的好奇心を刺激されながらも、明日から使えるノウハウも手に入れられる。素晴らしい仕事だ。

ただ、本書において一番重要なのは、問題とその解決の捉え方である。世の中の問題には、しっかりと最適解が得られる問題もあれば、どうがんばってもそれが無理な問題もある。後者のような問題は、最適解を求め始めると泥沼にはまり、何も決定が下せなくなる(「目の前の人は、私にとって最良の伴侶なのかどうか知りたい!:)。

そんなときは、「そこそこ良い」状態で手を打つことが肝要だ。今、「手を打つ」と妥協的な言い方をしたが、むしろそれが我々にできる最上の決定なのである。

たとえば、超整理法(≒押し出しファイリング)でも、運が悪ければ、ファイルの一番最後まで探さなければならないときはある。それはまあ、あまり心躍る体験とは言えないだろう。それでも、全体の探索作業(≒ファイルを探す作業)を見れば、「未来がわかっている場合の二倍以上には決してならないはず」だという。私たちが将来どんなファイルを使うのかが事前にわかっていれば、まさしく完璧なファイリングが実現するだろうが、その状況は現実的ではない。しかし、超整理法を使えば、その完璧な状況の二倍程度の時間で探索は済むという。ルールのシンプルさに比べて得られるリターンは非常に大きい。

他にも本書では、スケジューリングの項目においてGTDがちらりと言及されている。今何を実行し、次何を実行するのか。パソコンのCPUは常にその問題と格闘しているわけだが、その知見は私たちのスケジューリングにも役立つか。Yes。少なくとも、その考え方は大いに役立つ。重要なのは何を達成したいのか、だ。何よりも納期を守るのか。それとも、一つでも多く作業を片付けるのか。それによって、良い結果が引き出せるアプローチは変わってくる。必ずしも、「これさえやれば、何でも完璧にうまくいく!」という銀の弾丸が存在するわけではない。

本書はさまざまな問題解決アプローチを提示してくれるが、それ以上に重要なのは、「問題をどのように捉えるか」であろう。本書ではそれが、リアルかつシビアに示されている。それを吸収することもまた、「頭が良くなること」とは言えるかもしれない。

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