5-創作文

伝説の勇者となりうる男

むかしむかしあるところに、伝説の勇者となりうる男がいた。齢は16。これからグングン成長が見込めるたくましい体つきで、現時点では空っぽであるが魔力の潜在性も十分だった。

しかし彼は手先も器用だった。編み物や小物作りが得意で、町の子供たちに配ってはよく喜ばれていた。彼もそのことに満足していた。

16歳のとき、抜剣の儀式に参加した。通過儀礼として町のすべての青年が参加することになっている。ひとり、またひとりと剣が抜けないことを確認し、冒険者ではなく町人としていきる旨をたしかめていったが、彼はあっさりと剣を引き抜いてしまった。そんなに簡単に抜けるとは思ってなかったので、勢いがつきすぎてひっくり返ってしまったほどだ。

そうして彼は剣に認められ、町の人にも認められたが、彼は剣も自分の運命も認めていなかった。第一、彼はこれまで冒険に出たことがなかったし、そんなことができる自信もなかった。必要性があることは理解していたが、それが自分でなけれはわならない理由は誰にも説明されなかった。ただ、剣が抜けたから。それだけだった。

彼は自分の器用さを理解していたし、楽しくもあった。それで何がいけないのだろうか。子供たちだって喜んでくれてるじゃないか。

そうこうしているうちに、国王からの迎えの馬車がやってきたが、彼はそれを拒絶した。そんな反応はまったく初めてだったので、使者の人間は対応に困ってしまった。連れて行かないと国王に叱責されるだろう。しかし勇者の素質を持つ人間を力づくで連れて行くのは、老体には難しい仕事である。やがて、その気がない人間に冒険を任せても詮無いことだと諦めて使者の馬車は帰っていった。二度とその使者が町を訪れることはなかった。

結局、伝説の勇者となりうる男はそのまま町で小物作りに明け暮れた。趣味程度の腕前だったので、子どもには喜んでもらえても仕事にするのは難しかった。それでも彼は作り続けた。それしか彼にできることはなかったからだ。

やがては、子どもたちも小物には飽きてしまった。今では遊び道具がいっぱいある。それでも彼は小物作りを続けたが、本当に自分がこれを好きなのかは確信が持てなくなっていた。今ではもう、誰も自分が作ったものを喜んではくれない。いったい俺は何を求めていたのだろう。その自問に答えてくれる人間は誰もいなかった。

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