前回は、使用済みのカードの有用性について考えた。
有用性はあるが、むしろ有用性があるがゆえに可能性の極大化を避けるために見えない場所に移動させた方がよい。
では、その移動の仕方はアーカイブなのかリンクなのか。
アーカイブ
Gmailでは、メールを削除しなくても「アーカイブ」してinboxから取り除くことができる。その場所に移動されたメールは、普段は目に入らないが、必要に応じて表示させることもできるし、もちろん検索対象にもなる。
デジタル情報カードでも同じことができるだろう。通常のカードを表示させるラインがあり、カードについている「go to Archive」ボタンを押せば、そのカードはアーカイブラインに移動され、通常のラインからは見えなくなる。
無論「アーカイブ」ボタンを押せば、そのラインが表示されるし、また検索もできる。
亜種に、done方式もあるだろう。カードについている「done」ボタンを押せば、そのカードの表示は消える。ただし、ラインは移動していない。不可視になっただけだ。だから、何かしらのボタンを押せば、すべてのカードを表示させることもできる。
この方式のメリットは、カードの形式を一切変更する必要がない点だ。データを保存している場所を、地点Aから地点Bに移動させれば済む。実装はすごく簡単だ。非表示にする場合も同様で、何かしらの属性を添付すればいい。
形式が変更されていないと、メインのラインにカードを復帰させるのも楽チンである。逆向きの手順を取ればいいだけだからだ。
リンク
では、リンク方式はどうだろうか。
複数のカードを使い、記事なり本を書いたとしよう。メインのラインからはカードを削除する代わりに、それらの「アウトプット」へのリンクを残しておく。あるいは、本文全部を記録しておく。
たとえば、再生産ラインというのを作り、そこにアウトプットした先のリンクをずらずらと並べていく。あるいは、書き上げた文章をずらずらと並べていく。
この場合、カードと同じ形式というわけにはいかないだろうし、再復帰はもはや不可能である。
あるいは、リンク方式ならばカードに揃えることは可能かもしれない。
カードのタイトルに文章名、カードの中身にURLを突っ込めば、他のカードと極端な差異は生まれないだろう。で、そのカードに、「検索されそうな言葉」を添えておけばバッチリだ。
ただし、そのカードを通常のラインに並べておくと、カード総数の極大化が発生するので、別の表示ラインを設定した方がいいだろう。
そう。ワンアウトラインの思想とは、実は「見えないライン」の存在が後ろにあるのだ。でなければ、私たちは情報に押しつぶされてしまう。
とりあえず、リンクをカード型にするという手法は合理的である。カードの復帰は難しくとも、実装の形式は統一できる。
そう。ここが問題かもしれないのだ。
誰の都合が優先されている?
これは明らかに「開発者の都合」である。でも、もしかしたらユーザーは「使用済みの情報」とそうでない情報を、明示的に区別したいかもしれない。そのとき、同じカード型になっていない方がよいかもしれない。その点からこそ、UIは検討されなければならないだろう。
だから、もっと根本的な視点から見直してみよう。私たちが、過去使用した情報にアクセスしたくなるときはどのような状況だろうか。
生産性を向上させるため、過去に書いた原稿を流用するため? もちろん違うだろう。それは手抜きというものだ。
たとえば、すでに自分はそのことについて書いたかどうかを確かめたり、書いたとしたらどのように書いたのかを確かめたり、する場合ではないか。少なくとも、過去書いたことを過去書いたように書きたいわけではないはずだ。
よって、使用済みのカードを使用済みのカードのまま残しておくのはよくない。それは他の数多のカードとリンクする可能性を有するが、その中には、過去とまったく同じようにリンクし利用される可能性も含まれている。それを避けるならば、カードではなく、やはり成果物に直接アクセスした方がよいだろう。少なくとも、どういう文脈で使用されたのかは確認できた方がいい。
これは別に同じことを書いてはいけない、という話ではない。同じことを、同じ文脈で、同じ構造で書いても、「生産性」は低いというだけである。そういう仕事で満足できるなら別に構わないが、私としては避けたいところである。
このツールの仕事
Memex的システムを想像するならば、リンクではなく文章そのものを保存しておくのがよいだろう。それらすべてを検索対象にすれば、自由自在に情報を行き来できる。
しかし、一つの成果物は短くて2000文字、長いと十万字規模になるわけだから、それらをカードのように並べていくのは厳しいものがある。アウトライナーのように開閉ができるか、あるいは抜粋のみを表示させる機能が必要だろう。
とはいえ、どう考えてもそれはこのツールの仕事ではない。そういうのに向いたツールはごまんとあるのだし、だいたいEvernoteを使えばじゅうぶんではないか。
よって、そのような使用済みの文章の保管に関しては、デジタル情報カードツールの仕事ではないと考える。保管できたら便利には違いないが、そのような希望によってツールの特性は拡散、希薄化していくものである。
そういう「よくある希望」を取り込むのではなく、ここでは全然別のアプローチを考えてみたい。
必要なのは、「過去自分が何をどこに書いたのか」という情報だろう。それさえあれば、必要な文章にはアクセスできる。少なくともそういう環境を提供してくれるツールはある。あとは、そうした情報を探しやすくするためのフックを準備しておけばいい。タグやキーワードが活躍してくれるだろう。
少なくとも、生成した情報に関する情報をメインのカードラインとは別に管理しなければならないという発想を持ったツールは存在しないのではないか。
私たちの知的生産はスナップショットではない。経過があり成果がある。それらを別々に管理しながら、同一のコンテキストで検索できるなら、これは素晴らしいことではないだろうか。
とりあえず、使用済みのカードについては方向性が見えてきた。もう少し、いろいろな観点から考えてみたい。