7-本の紹介

【書評】「箇条書き手帳」でうまくいく はじめてのバレットジャーナル

本書を見て、最初に思ったのが「なぜ、「箇条書き手帳」ならうまくいくのだろうか」という疑問である。これは「メモ」の研究において、重要なファクターになりそうな予感がある。

そうした疑問を抱えながら、本書のページをめくってみると、実に丁寧な解説書であることがわかる。著者の体験がベースになっているのでマニュアル的な冷たさがないし、逆に過剰な押しつけ──人生を変えたければ〜〜しなさい──もない。やわらかい文章で、端的にバレットジャーナルについての紹介が展開していく。

目次は以下の通り。

  • Prologue バレットジャーナルは、私の人生をよくしてくれる相棒
  • 第1章 まずは、最低限の基本をおさえましょう バレットジャーナルのつくり方、はじめ方
  • 第2章 ちいさなくふうで、ストレスフリーの毎日 私は、こんなふうに使っています
  • 第3章 なんでも書き出しておけば安心! あわてない! つくると便利な「コレクション」アイデア集
  • 第4章 アイデア盛りだくさん! 今すぐ真似したい みなさんのバレットジャーナル、見せてください!
  • Epilogue バレットジャーナルをはじめて、いちばん私が変わったこと。
「箇条書き手帳」でうまくいく はじめてのバレットジャーナル
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2017-10-13)
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記録が生むもの

本書の要点は二つあるだろう。まず、Epilogueの「バレットジャーナルをはじめて、いちばん私が変わったこと」で書かれていることだが、記録があったことで自己が変わった、という点だ。

文中では”自分の強みを知ることができた”とあるが、それだけではないだろう。よくある失敗や、自分の感情が落ち込みやすい状況の傾向も知ることができたのではないだろうか。

それらは基本的には「見えない」ものである。私たちには見えていないものが山ほどある。そして、見えないものは実感も伴わないし、またそれらを操作することもできない。記録はそれを変えてくれる。言い換えれば、私たちは、記録を通して自己との関係を変えていける。

だからこそ、記録を残すことが大切となる。そして、そこでどんなツールを使うのかは大した問題ではない。どんなツールを使うかは、自由なのである。

自由度が高く使えるツール

しかし、そうはいっても相性の良いツールというのはある。記録は残してナンボだからこそ、残しやすいツールの選択が重要になってくる。そして、このバレットナージャーナルというシステムは、その点に関して広い許容を持つ、というのが本書のもう一つの要点である。

バレットジャーナルは、二つの大きな指針を持つノーティング・フレームワーク(≒ノートの使い方・書き方)だ。一つは「たった一冊のノートを使うこと」。もう一つは「箇条書きを中心にすること」。この二つである。この二つさえ押さえておけば、他の細かい点は使用者に裁量がある。言い換えれば、使用者の「残しやすい」書き方を選択できる。

だからこそ、本書は全編を通して「私はこうしてします」というトーンが保たれていて、「こう書かなければいけませんよ」とはなっていない。そのような押しつけは、バレットジャーナルの良さを潰しかねないと著者が理解しているからだろう。

基本的なポイントさえ押さえておけば、あとは使用者の裁量でいろいろ変えていける・追加していける、というのは、「記録を残してナンボ、ツールは別にどうでもいい」という指針に非常にマッチする。いろいろな人、いろいろな状況で使っていける、ということだ。

実際バレットジャーナルは、紙のノートだけでなく、アウトライナーやScrapboxのようなデジタルツールでも実践されていると聞く。そうした事実もまた、バレットジャーナルの許容の広さを示すものだと言えるだろう。

三つの有限化

ではなぜ、箇条書き手帳(≒バレットジャーナル)ならうまくいくのだろうか。ポイントは、有限化にあると思う。三つ挙げてみよう。

まず、一冊しかノートを使わないことだ。あちらこちらに情報を分散させない。これは保存場所の有限化である。これで、悩むことがずいぶん減る。無論ノートが一冊しかないと困ることもあるわけだが、それ以上にノートが増えると「どこに書こうか」という問題が生じるし、それは「どこに書いたんだっけ」という結果を引き起こす。保存場所の有限化によってそれが回避されている。

次に、記述の有限化だ。この点は以前「Bullet Journalとは何か。」について書いた(→箇条書きとは過剰に書かないことである)。記述を減らすことは、書き込む際よりも、後からそれを見返す際に効果を発揮する。長々と書けば書くほど、それを読み返す気力と時間が必要となる。書き込むことが一日に一つ程度ならそれでも構わないかもしれないが、実際そんなことはないだろう。すると、大量に書き込んだところで、それらは活用されないことになる。

ならばむしろ、箇条書きで簡素に書いた方が、完全ではないにせよそれらを情報を活用できる可能性が高まる。これは以前書いた「1/1の地図は地図ではない」(参照)という話に通じる。

最後に、保存量の有限化である。この点は、アナログノートとデジタルツールで話が変わってくる。

アナログノートの場合、「一冊のノート」しか使わないならば、必ず移行作業が生じる。つまり、書きうつす作業だ。

旧ノートにAというリストがあった場合、新ノートにもそのAのリストを書きうつすわけだが、そこで「さて、このAのリストは必要だろうか」と考える機会が生まれる。

さらにAのリストに含まれる各項目についても、「これはしばらく触っていないし、もう興味も薄れているからうつさなくていいや」と考える機会も生まれる。つまり、「書き写す」ではなく、「書き移す」によって、情報の選別が行われる。

保存できる情報量に上限がないならば、こうした情報の選別作業はまず自発的には行われない。自主的にレビューを設定し、それをスケジューリングかリマインドしなければならない。しかも、保存量が無限であれば、「まあ、置いておこうか」という判断になりがちである。手書きの書きうつしは面倒だからこそ、「書かなくていいや」という発想が起きやすい。つまり、天秤は捨てる方に傾いている。

さらに言えば、情報を残していけばいくほど、それら全体に対する「これは捨てようかどうしようか」のレビューには時間がかかるようになる。つまりは、やらなくなる。その点、一冊のノート方式では、移行のタイミングでチェックするのは常にノート一冊分の情報量で済む。レビュー対象もまた有限化されているわけだ。

上記のような特徴によって、バレットジャーナルでは非常に情報が扱いやすくなっている。

書く場所が決まっていて、書ける量にも上限があり、情報は断片的に固定される。また記号などを合わせて使うことで「見ただけで」情報が判断しやすい工夫もある。さらに、ノートの切り替えという強制的なレビューの設定と、書き移すのが面倒という捨てるための重み付けもある。

どれもこれも、情報量を一定以下に抑えることで、情報を扱いやすくするための工夫である。情報が溢れかえる現代だからこそ、むしろ情報を抑制するためのシステムがうまく機能する。おそらく、そういう背景があるのではないだろうか。

さいごに

バレットジャーナルに難しいルールはなく、またツールを選ばないので気楽にスタートできる。

ただしそれは「簡単」であることを意味しない。基本の型からスタートし、自分に見合ったカスタマイズを加えることが必要である。そのためには試行錯誤が欠かせないわけで、楽な旅路ではないだろう。

とは言え、これはバレットジャーナルに限った話ではない。世の中に存在するすべての「〜術」について言えることだ。その点、バレットジャーナルは始めからカスタマイズを歓迎しているので、取りかかりやすいことは間違いない。

最終的な目標は、「記録を残し続ける」ことだ。そして、それらを利用することだ。本書はその出発を手助けしてくれるだろう。

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