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【書評】バカロレア幸福論(坂本尚志)

Posted on 2018 年 4 月 30 日2018 年 4 月 30 日 by Rashita

本書は、「考える」についての本だ。考えるとはどういうことか、考える上で私たちは過去の哲学者や思想家とどのように付き合っていけばいいのか、そうしたことを提示してくれる。

骨子となるのはバカロレア試験だ。フランスで行われるその試験の、特に哲学の問題(哲学小論文)にフォーカスしている。

バカロレア幸福論 フランスの高校生に学ぶ哲学的思考のレッスン (星海社新書)
バカロレア幸福論 フランスの高校生に学ぶ哲学的思考のレッスン (星海社新書)

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坂本 尚志
講談社
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幸福と思考

本書を進めていくうえで、著者は幸福を中心的なテーマに据えた。考えることなしに、幸福には至れないのではないか。そんな主張すらほのかに感じられる。

幸福は実体のないものだ。目に見えるものとしてどこかに存在しているわけではない。だから、幸福については考えなければならない。「幸福とは何か?」

これは他者任せにできない問題だ。生きることそのものに直接関わっている。

「これが幸福ですよ」と他者から与えられたもので満足するのではなく、一体何が幸福なのだろうかと真剣に問う。その際に、過去の哲学者はさまざまな素材とプロセスを提供してくれる。貧弱な頭ひとつで考えるよりも、はるかに強度のある思索が行えるだろう。

所詮人間はバイアスと先入観の塊であり、自分の頭だけで考えたところで得られる結論などたかが知れている。たいていは思い込みが、より強い思い込みとなって現れるだけだ。

本書で紹介されている哲学小論文への解答は、単に自分の考えを主張するだけのものではない。過去の哲学者の意見を引きながら、一つの主題についてどんな考えがありうるのかが検討される。Aという意見があり、その反対のBという意見がある。その両者が検討される。巷のプレゼン術には、自分の主張に説得力を持たせるために反対意見も紹介しなさい、というテクニックがあるが、それとは似ていながらも、少し異なる。

結局、この問題には正解などないのだ。二つの反対の考え方があるとして、そのどちらも正しいと言えるし、どちらも間違っていると言える。結局のところ、重要なのは自分がどれを選ぶのか、ということなのだ。何を自分の正解にするか。それがもっとも大切なことである。そして、その選択をよりよくしていくために、個々の選択肢について検討する。さまざまな視座を通り抜ける。その過程にこそ意味がある。

選択の結果でしかないのならば、いやむしろ選択の結果なのだから、そこから生じる事態については自分で引き受けなければならない。何でもかんでも他人のせいにして、愚痴り続けるのではなく、自分ごととして結果と向き合わなければならない。なにしろ、それを選んだのは自分なのだから。

また選択なのだから、他の人が別の選択をしていても、そのことで争うことはなくなる。忌み嫌う必要も、攻撃する必要もない。私には私の選択があり、誰かには誰かの選択がある。別の人の別の選択は、自分を攻撃しているわけでも、非難しているわけでも、侮辱しているわけでもない、と感じられるようになる。

そして、選択なのだから、必要であれば変えてもいける。それは真理ではない。何を幸福とするのかは、──そう頻繁ではないにせよ──変えていけるものだ。これはどこまでいっても同じである。つまり、「幸福とは何か?」という問いが止まることはない。生きる上で、発し続けられる問いなのである。

さいごに

試験ではなく、生きる上で大切なのは答えのない問題とどう向き合うかだ。もう少し言えば、答えなるものが提示されていても、それですっきりと問題解決に至れないような事象とどう付き合っていくかである。

残念ながらこの手の事象(あるいは問題)については、正解を暗記したり、ぐぐったりしても、何ら得るところはない。むしろ、選択と受容のプロセスがすっ飛ばされて、ややこしい状況に陥るだけである(そういう場所で手ぐすねを引いている輩は必ず存在する)。

いまの日本人が幸福なのかそうでないのかは私にはわからない。しかし、正解の(もっといえば答えの)ない問題との向き合い方を身につけていないと、ときおり現れる大きな穴にずっぽり嵌り込んでしまうのではないかと危惧してしまう。文学が遠ざかり、闊達な意見交換がなくなった世界で、いったいどのようにしてそのような「方法」を手にすることができるのか。

本書はわざわざ「試験」という形を通して「考える」ことを紹介している。これは、正解がある「試験」漬けで「考える」ことから遠ざかりつつある我々にとってよい橋渡しになるかもしれない。

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