ビジネス本を読む目的は、知識を得ることでもあるし、ある種の気づきを得ることかも知れない。著者の思考スタイル・哲学を追いかけるためかもしれない。
ただ、ビジネス本を読む上ではどうしても「実践」が必要になってくる。趣味で読む場合でなければ、現状からの何からの変化を期待してそういったビジネス本を読むのだろう。それは問題点をカイゼンすることかも知れないし、組織をもう一段上の段階に押し上げたいのかも知れない。あるいは自分の仕事周りの環境を効率よい物にかえたい、ということかもしれない。
そして、そのような効果を上げるためには、当然「実践」する必要がある。
「読んで,実行する」というのはある種の読者にとっては高いハードルだが、私は最近これを読者の姿勢だけではなく、ビジネス本の書き方で改善できるのではないかと思っている、しかし今回はとりあえず読む人の姿勢中心で少し考えてみたい。
知識のデパート
「小宮一慶の実践!ビジネス思考力」という本に「知識のデパート」という表現がでてくる。
最近のビジネスマンが読む本を指して
そのような本の中には、「知識のデパート」にすぎないものが少なくありません。
と酷評に近い表現をしている。
たしかにさまざまな知識が切り取られ、目を引く言葉、インパクトのあるタイトルを付け一冊のビジネス本として書店に並べられている様子は、綺麗な商品がきらびやかな装飾とともに売り場に陳列されているデパートの売り場を想像できなくもない。
そして読者は売り場から売り場と渡り歩き、そこに並べられている商品に感動し、酔いしれる。その商品を自分が持ってどう使うか、ということはあまり考えない。マネキンが来ている洋服はあまりにも立派で見栄えがするので、自分が着たらどうなるかということは想像することすらしない。
しかし店員はかならずこういうのだ
「良くお似合いですよ」
と。
さきの本の中で、著者は「知識」そのものも必要だが、最終的にそれを使うことが大切で、そのためには思考力が必要になると述べている。確かに知識ばかりを持って成果を出せないビジネスマンの将来は暗いだろう。
鍛えるべき3つの能力
私が考える上でビジネスで成果を出すためには3つの物が必要だと思う。
それは
- 基本的な知識
- 応用するための思考力
- 実行する力(意欲)
の3つである。
○基本的な知識
無から有を生み出すことはできない。
持っているだけでは何の差別化もできないが、ないと舞台にすら立てないという知識。専門的な知識も分解してみれば基本的な知識を土台に発展させたものであることが多い。それはつまり基本的な知識に思考力を使って磨きをかけたもの、ということだ。それが専門的な知識になる。
○応用するための思考力
基本的な知識がある前提で、それを発展し、応用していく力。これは知識によってある程度得られる能力でもあるが、意識的な本を読み方をしないとまず得られない。読書以外では他人との対話でも鍛えられる事が多い。会話ではなく対話である。(意識的な読書も一種の対話と言える)
思考というのは考え方の道筋である。それは一度道筋を付ければ次回からは歩きやすいように、一度得れば非常に有用に使えるようになる。
完成されたフレームワークはすでに知識であるが、それをどの場面で使っていくか、というのは経験から得られる思考力だ。
思考力にも分析力や提案力までさまざまな段階がある。本来は知識の増加とともにこの思考力が増えていくのが望ましいのだろう。
HowTo本の問題として指摘されるのは、応用された知識ばかりを吸収して、基本的な知識ばかりでなく、それを応用する思考力も鍛えられない、という点についてだろう。ただしHowTo本も意識を変えて読めばそれなりの成果を得ることができると私は思っている。
(HowTo本はいかに読むべきか?)参照
○実行する力(意欲)
あなたの脳の中がいかに磨き上げ整えられた台所になっていてもそこに料理人がいなければ、テーブルの上に料理が出てくることはない。
最終的には実行しなければいけない。実行力はかなりの部分意欲と結びついている。もちろん効率性を上げて実行力のなさ(やる気の低い部分)を補うことはできる。しかしやる気がゼロならば成果もまたゼロだ。
実行力に関しても、知識と思考力で補えるのが最近のライフハックである。人間の心理の動き、思考の癖を把握してなるべくやる気が起こるように環境を整えることはできる。
ただし、その環境を整える行為もまた実行される必要がある。どこかで素の実行力を発揮する必要がある。
○相互関係
よく見ていくと、これら3つは互いに関連している。
知識は応用しないと使い物にならないし、思考力は知識がないと働かない。それぞれを有効活用するのは実行力であるが、これもまた知識とその応用によって促進することもできる。
これは良い循環機能が生まれればどんどん促進していけるとも捉えられるし、どこか一つが機能しないと徐々に破綻していく、とも考えられる。
いかにして「知識のデパート」から脱出するか?
タイトルの問いに答えるならば、実は非常に簡単な答えが出てくる。
「行動を起こす」
知識があって、行動に起こしたい場合、間の思考力がどうしても必要になってくる。本に書いてある知識→行動にはまず繋がらない。書いてある事は読者にとっての現実とはほど遠いものであることがほとんどだ。
しかし、切に行動を起こしたいと思っているならば、「必要は発明の母」的に自ずと思考力が働き出すだろう。その時点での思考力では実施するに足りる応用ができないかもしれない。しかし思考する中で足りない部分というのが必然的に見えてくるようになる。そこからが本当のスタートだと言える。
そうして行動を起こすことで、知識のデパートのウィンドショッピングからようやく脱出することができる。
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とまあ書いておいてなんだが、この単純な解決こそがもっとも難しいのだ。
知識→思考力→実行→のサイクルができていなければ、実行を起こすことこそ最大の難関なのだ。
私がここで「行動を起こせば何もかもが好転します」などと書いたところで、それすらも一つの知識であり、デパートの売り場を眺めているだけの人に影響を与えることはできない。
「健康、経済、男女関係や人間関係で破綻的なことを経験しなければ人は変われない」というのは「ユダヤ人大富豪の教えⅡ」に出てくる言葉だが、これは価値観のパラダイムシフトが無ければ行動は変わらない、ということだ。
簡単な解決がそこにあるのに、決して手を伸ばそうとしない姿勢を改める簡単な解決がそこにあるのに、決して手を伸ばそうとしない・・・
このループは簡単には崩せない。
もしビジネス本の著者が本当に読者の行動を変えたいと思っているならば、適切なアプローチが存在するのではないかと私は考えている。それについてはまた次回か近いうちに書くことにする。
参考資料
小宮一慶の実践! ビジネス思考力 |
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