0-知的生産の技術

情報の真偽を見極める力とその口伝

朽木誠一郎さんの『健康を食い物にするメディアたち』では、メディアに働く経済合理性を逆転させるために、つまり「売れるから正しくないものを作る」で「正しくないと作って売れない」な状況を作るために、私たち一人ひとりが”メディアの発信する情報の真偽を見分ける力を持つこと“が大切だと説かれています。

健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方 (BuzzFeed Japan Book)
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2018-03-25)
売り上げランキング: 25,979

さらに同書では、第三章をひとつ使って著者なりの医療情報見極め方が紹介されています。ポイントは「禁止ワード」「エビデンスのピラミッド」「因果関係」のフィルターによって、明らかにウソや不正確な情報をフィルタリングしている、という点でしょうか。

禁止ワードとしては「すぐに」「ラクに」「だけで」「最新」「先端」「奇跡」「生還」「聡明」「若々しさ」「高配合」「高濃度」「ポリフェノール」「オメガ脂肪酸」といった言葉が例示されていますが、そうした言葉を用いて「法的リスクをおかさずに商品の効能を謳い、消費者の購買意欲を高める」ことが意図されている情報は、とりあえずスルーしてOK、ということでしょう。

また、エビデンスのピラミッドですが、単純にエビデンスの有無を見るだけではなく、そこにある強弱を読み取る、というものです。たとえばネズミを使った実験と、人間を対象にした幅広いランダム化比較試験では、やはりエビデンスの重みに違いがあります。そうしたものを読み取った方がいい、ということですね。

最後の「因果関係」ですが、これが一番難しいかもしれません。「〜〜をしていたら、○○になった」といった話において、あたかも〜〜が○○の原因であるかのように感じられますが、もともと○○になりやすい人が〜〜をしやすい傾向があったのかもしれません。

A市とB市で、死亡した人の数が倍以上違うなら、片方の市がとんでもなく危険に感じられますが、単に人口が倍以上違うのかもしれません。人気ブロガーがITネタを扱っているのを見ると、成功するためにはITネタが必須だと感じられますが、もともと情報感度の高い人がブロガーになっていて結果として選ばれたのがITネタだったのかもしれません。一ヶ月薬を飲んでいて復調したらその薬のおかげに感じられますが、何も飲まなくても一ヶ月もすれば自然治癒したのかもしれません。

ともかく、因果関係ではなく相関関係、あるいはまったくぜんぜん関係すらないものにまで、「原因と結果」を見て取ってしまうような性質(因果バイアスとでも呼びましょう)が、私たちの脳にはあるようです。よって、その点については安易な判断をせず、しっかり精査した方がよいでしょう。

磨かれる直感とその伝達

上記のような見極めはもちろん大切なのですが、一方で私たちは意識的な努力なしに、「これは怪しいな」と思うことが多々あります。スパムメールはいかにも怪しいですし、怪しげな医療情報を扱うサイトはいかにもうさんくさく感じられます。ある種のパターン認識がそこでは働いています。

でもって、それは上に紹介したような要素もずいぶんと加味されているでしょう。

しかし、たとえば江戸時代から武士がタイムスリップしてきて、一番最初に見たWebサイトが怪しい医療情報サイトであれば、私たちが感じるようなうさんくささは直感されないでしょう。言い換えれば、私たちは経験を経ることで、情報判断のための直感を形成するパターン認識を育てていくわけです。社会経験の少ない人間が、怪しいビジネス情報にあっさりダマされてしまうのも、この辺にポイントがありそうです。

現代のネットを使っている中年以上は、たぶんいろいろ「怪しいサイト」に触れてきたでしょうし、そこで培われた経験は、無意識の中で情報判断に役立っていると想像します。しかし、そうしたものは別段遺伝的に引き継がれるわけでもありませんし、なによりもパソコン操作・インターネット・スマートフォンでの行動は、きわめて個人に閉じているので(子どもが背後にいるのにエッチなサイトを検索するお父さんはどれだけいますか?)、見よう見まね型の情報伝達も期待できません。

テレビを一緒にみて、適当なことを言うニュースキャスターについて「勝手な思い込みじゃないか」みたいなことを指摘する場面は想定できますが、自室でひとりググっているときにはそのような場面は想像できません。

そう考えてみると、現代で情報の真偽を見極めるための情報というのは案外手に入りにくいのかもしれません。

義務教育内でそうしたものがきちんと教えられているかどうかもわかりませんし、そもそもとして、我が国ではマスメディアが発信する情報は基本的に正しいものと受け取られてきたような背景があるので、一部のインテリや読書家を除いて、「情報の真偽を確かめる」という観念自体が大衆的に育ってこなかったのかもしれません。

やや脱線になりますが、この点が漫画村がカジュアルに利用されてきた理由の一つなのでしょう。私もサイトのUIを見ましたが、少なくとも見た目においてあれが違法なサイトだとは感じられませんでした。もしあのサイトの背景が#000000で、画面のやたらめったらに広告が貼られ、ときどき邪魔な広告がPOP-UPされてくるような作りであれば、「これって公式なんだろうか?」と疑う利用者も結構出てきたと想像しますが、そういう雰囲気は一切ありませんでした。たぶん著作権的にアウトなサイトを利用しているという意識を持たないユーザーはかなり多かったのではないでしょうか。だからこそ、ああしたサイトにどう対処すればいいのかという議論がテレビや新聞の紙面に載るようになって、利用者の落ち込みがあったのではないか──みたいな話は憶測にすぎませんが、それでも、私たちはあまり深く考えることなく情報の真偽を見極めていて、その直感は経験によって育まれる、という点はしっかりと考えておきたいところです。

その意味で、バッドノウハウやバッドバターンやバッドデザインを集めるように、「怪しげなウェブサイト」を収集したサイトを──たとえばScrapboxなどで──作ってみてもいいかもしれません。それがややこしければ、そうしたウェブサイトを模したウェブサイトをプロトタイプ的に作ってみてもよいでしょう。

あるいはどんな言葉で検索し、出てきた検索結果のどこを確認し、どう判断するのか。その判断から次にどんなステップを踏むのか。そういう情報摂取の作法を「口伝」するサイトを作ってみると案外役立つかもしれません。

とりあえず、騙そうとするサイトに問題があることは間違いありませんが、それとは別に当人はしっかり真実を伝えているつもりでまるっきりのウソが書かれてしまっているサイトもあるわけで、「情報の真偽を確かめる」力はやっぱり必要ではあるでしょう。基本的なリテラシーとすら言えるかもしれません。