2-社会情報論

生産性の計算式を別の仕方で眺めてみる

『マネージャーの問題地図』生産性を示す式が掲載されていた。以下はp.167に掲載されたその図をもとに作成したものだ。

難しいことは何もない。アウトプットをインプットで割ったもの。それが「生産性」だ。アウトプットには、「生産高」や「売上高」などがあり、まとめると〈成果〉と呼べる。一方インプットは、「原材料」「情報」「設備投資」「労働時間」「経費」などがあり、こちらは〈リソース〉と呼べる。つまり、リソースあたりの成果が生産性というわけだ。

さて、上のような式を見ていると、生産性拡大のための施策の方向性がぼんやりと頭に浮かんでくる。

アウトプット固定→インプット減少
インプット固定→アウトプット増大
インプット微増→アウトプット激増

といったところだろうか。

アウトプットが変わらないままに、インプットを減らせば生産性が上がる。少ない人員で同じ成果を上げればよい、ということだ。

一方、インプットの方を固定して、アウトプットを増大させてもいい。みんなガンバレ、ということだ。

だいたいこの二つがまっさきに思い浮かぶだろう。あと、多少ひねくれた人ならば、インプットを少し増やす代わりに、それ以上の量アウトプットが増える、という施策でも生産性がアップすることはわかる。

が、あまりこの式からは、そういうイメージは誘発されない。だいたいは上の二つがイメージされるのではないか。

「これまでと変わらない成果を、より小さなリソースで生み出すこと!」
「これまでと同じリソースで、より大きな成果を出すこと!」

このどちらかというわけだ。

では、それを達成するためには、どうしたらいいだろうか。「一人ひとりがもっと頑張ること!」 なんとなくこんな結論が出てきそうな雰囲気がある。たしかに、それぞれの人が「頑張れ」ば上記の目標は達成できるだろう。しかし、それが今求められている生産性向上に関する議論と合致するのかは極めて疑わしい。竹槍を持ってつっこめ、というのと大差ないのではないか。少なくとも、たくさんの給料をもらっているマネジメント層やコンサルタントが出すべき結論ではないだろう。

そこで、少しイタズラしてみる。といっても、たいしたことではない、通常の式操作だ。

両辺に、インプットを掛ける。

意味することは何も変わっていないが、式の中から割り算が消えた。そして、印象も変わった。

手持ちのリソースに「生産性」を掛けたものが、資源として産出される。ごく普通の企業活動を表現しただけにすぎない。でも、こうして式にすると「生産性」なるものの実体が浮かび上がってくる。

前者の式では、固定されたインプットというものがあり、固定されたアウトプットもあり、その割り算として、生産性が──まるでスコアのように──計算されていた。

後者の式では、手持ちのリソースに何か作用するものとして生産性が割り当てられている。その作用の仕方によってアウトプットは動的に変化していく。そんなイメージだ。

「原材料」「情報」「設備投資」「労働時間」「経費」なるものが一揃いあるとして、それが同じであればどの企業でも同一のアウトプットを出せるのかといえばNoだろう。職場環境、働きやすさ、状況共有、信頼関係、安心感、他の企業との協力関係、消費者からの支援、……数え上げればきりがない要素があり、それらがインプットをアウトプットに変換する過程に関与している。言い換えれば、それらが「生産性」を形作っている。

ここでは生産性はスコア(何かを評価するための指標)ではない。企業という装置の機能そのものを表している。

おそらくであるが、二つめ目の式を目にすれば、インプットやアウトプットにフォーカスするのではなく、「生産性とは何だろうか?」というややメタが疑問について考えるようになるのではないか。むしろ、その問いを真剣に考えることを避けるような誘導が、最初の式にはあるような気もしている。

特に大きいのは、一つめの式の形だと、いかにもインプットを小さくしていく方が良さそうな雰囲気があるのに対して(だから人件費はどんどんと下がっていくわけだ)、二つめの式だとそんな感覚はほとんど湧いてこない点である。インプットが0になれば、どれだけ「生産性」なるものが高くても、生み出せるのは0,ということがはっきり示されている。一つめの式では、0で割ることになるので、不都合なことは考えない、というような雰囲気が感じられる。

もちろん、こんな式変換はしょーもないイタズラの一つに過ぎない。

生産性を「計算」しようと思えば、アウトプットをインプットで割るしかない。でも、その割り算が測っているものは、本当のところ何なのかについて考えてみないと、ただただインプットを減少させ、帳尻あわせのように「生産性」を向上、ないしは維持させることしかできないのではないだろうか。

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