本書は山本一郎こと切込隊長・・・じゃなく切込隊長こと山本一郎氏のVoice+というWEB連載を下敷きにした書かれた本である。あらためて山本氏のプロフィールを説明する必要もないだろうし割愛するが、投資家としていまの日本の産業がどのような形になっているのか、そして今後はどうしてくべきなのかを解説するその視点は非常に鋭い。
ネットビジネスの終わり (Voice select) |
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タイトルでは”ネットビジネス”とあるが、話題はそれだけではなく、日本全体の衰退的方向に向かっている産業をも含んでいる。
章立ては以下の4つ
第一章 「ものづくり信仰」から「売るためのシステムづくり」へ
第二章 瀕死のメディア産業
第三章 アニメ、ゲームが成長産業になれない理由
第四章 情報革命ブームの終焉
日本産業の衰退と変化の必要性
著者は第一章において、日本の大きな産業構造を分析している。国内産業の構図が国内でしか売れない商品しか開発できていない現状。本来は大きな企業を作り、政府のバックアップも付け、日本企業対世界の企業という構図ができあがっていなければそもそも土俵に経つことすらできない状況にもかかわらず、未だに日本国内でそういった構造の必要性について議論が真剣に行われていることはあまりない。
ものづくり信仰からの転換としては野口悠紀雄氏の「モノづくり幻想が日本経済をダメにする」という著書がある。この本は2007年に書かれた本であるが(あぁ麗しき2007年)、この本においても日本国内の企業が非常に「閉じている」ことを指摘している。中国の景気に引っ張られる形で日本経済も回復してきたがその時点で行うべき産業の抜本的な改革が実施されなかった、とみてもよいだろう。
野口氏が指摘する「モノづくり幻想」は「日本の産業はモノづくりが支えている」という考え方にといってよい。そしてそれに対応する解答は、日本産業のモノづくり以外へのシフト、になる。イギリスはビックバンにおいてそのシフトを成功させている。
それは、確かに大きな変化をもたらすだろうが、それに伴って痛みもでてくる。
今の日本にその痛みを堪える力はないだろう。
本書において、山本氏が指摘する「ものづくり信仰」は簡単に言えば「良いモノさえ作れば売れる。それでビジネスが成り立つ」という考えかだ。これに対する解答は「ものを作ることだけでなく、その売り方も考えていく必要がある」ということだ。
自分ブランドの必要性
質が良いだけではなく、売り方も重要になってくるというポイントはノマド・スタイルで仕事をしている人にとって重要な指摘になってくるのではないだろうか。
多くの人が自分の技術を磨き、フリーでその「仕事」を売り込むようなやり方が普及していけば、自ずと競争も激しくなる。その中で使ってもらえる度合いを増やしていくことは、単に仕事の質を上げるだけではなく、自分のアピールの方法も重要になってくる、ということだ。
それはよく言われる自分ブランドの確立ということなのだが、フリーランスあるいはプロジェクト単位で人材が集められるようになってくる社会では、その重要性の比率が高まることになるだろう。
普通に会社勤めしている人にとっては「まじめに仕事をする」ことが仕事の担保になっていた。それは日本の中だけで商売をする企業が良いモノを作ればうれる、と考えていたのとまったく同じ構造である。しかし変化は確かに迫ってきている。
※これは、世界と日本、日本と個人がフラクタルな構造をしているとように私には見える。
まとめ
日本全体を覆う産業の閉塞感についての本書ではあるが、その産業構造の中で一ビジネスパーソンがいかに生きるべきか、についても考えさせられる一冊である。
参考文献
モノづくり幻想が日本経済をダメにする―変わる世界、変わらない日本 |
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