0-知的生産の技術

10年の試行錯誤、その先の一歩

はじまりのはじまり

長い旅の話は、長くなる。

二つのことが起きつつあるように思う。どちらも根源は同じだ。

一つは、情報「整理」ツールについて。

情報のデジタル化が始まり、個人が持てるコンピュータが普及し、インターネットの常時接続がスタートしたことで、個人が情報を容易に蓄えられる環境が整った。それまでならば、よほど裕福な人か、暇な人でなければできなかった、情報の収集および蓄積が誰にでもできるようになった。

さまざまなツールがそれを支えたが、一番の貢献者はEvernoteであろう(機能性よりも、主に普及度の点で)。

Evernoteによって、個人が情報を貯められるようになった。それは間違いなくすばらしいことである。

しかし、それを使う私たちはどうか。デジタル情報で、500や1000ではなく、数万の単位で情報を蓄える経験は誰も持っていなかった。そのようなスキルは、一部の学者やジャーナリストが研鑽していただけであり、私たち市民には開かれていなかった。

うまい蓄え方もわからなければ、その使い方もわからない。そういう状況である。そんな中で、ガムシャラに情報を蓄積してきた。それが、ここ10年の私たちの歩みだったのではないだろうか。

もちろんそれは失敗ではない。実験において、あらゆる結果が一つの発見であるのと同じ意味で、私たちの歩みは失敗ではない。何が有用で、何が有用ではないのか。この10年の試行錯誤によって、何らかの経験とそれに基づく新しい仮説を立てられるようになっているはずだ。

そう。

だからこそ、新しいスタートが切れる。Re:ゼロから始めるEvernote生活が送れるようになる。これまでの失敗を踏まえつつ、それを回避して、新しい未来を紡ぐことができる。

そういうことが始まろうとしているのが、これからの10年ではないだろうか。

情報を外に出すこと

同じことは、情報「発信」ツールについても言える。

インターネットの登場は、個人的メディアの開闢でもあった。どこの組織にも属さない、どこの共同体にも依らない、株主やスポンサーの監視すらないメディアの誕生。それも圧倒的な数の。そういう世界は、それまでにはまったく存在せず、当然そこでどうたち振る舞うのかのマニュアルは整備されていなかった。

もちろん、短期的なものはいくつもあった。ちょこちょこっとやって、たまたま成功した人のノウハウが広く広まることは、メディア運営にかかわらずどこでも見受けられるものだろう。しかしそれは、決して10年というスパン、あるいはそれ以上長いスパンを加味したものではない。なにせ、そのときには、まだ時計の針はそこまで回っていなかったからだ。

そうして、10年や20年が経った。

何かが一周か二週かし、残るものと落ちるものに関する、わずかな傾向が見えてきた。いくつかの短期的なノウハウを、容易に反証できるような事例も増えてきた。

経験が貯まったのだ。

もちろん、情報「整理」と同じ側面もある。つまり、一個人が、4000とか5000とかの記事を保有するという環境は、これまで誰も持っていなかったのだ。その適切なデザインについて知見を持つ人は誰もいなかった。やや勇み足になるが、そう言っていいだろう。

ブログというメディアは、weblogという形でスタートし、そのときそのときの(ある種)時事的な要素を切り取る形で発展してきた。だから、注目されるのは直近の記事であり、5年前の記事ではない。5年前の記事は、アーカイブ的に参照されることはあっても、「活きて」使われることはない。今のブログの(主にシステム的な)デザインは、そういう風に構築されている。内容が日記であっても同じことだ。「今」をスタートとして、そこからわずかに線を延ばせる範囲だけが、ブログで「見える」記事なのだ。

はたしてそれは、10年のメディアを扱うにふさわしいものだろうか。

もちろん、ニュース系メディアならばそれでもいい。しかし、それ以外はどうか。それ以外のメディアについて、私たちは十分な知見を持っているのだろうか。

持っていないとしたら、マクルーハンの言葉が思い出される。「メディアは、メッセージである」。現状のブログの形式は、どんなメッセージを持っているだろうか。

二周ほどまわった今、私たちはようやくそのことについて考える準備が整ったのではないだろうか。

おわりに

長い旅の話は、長くなる。

本稿は、まださわりでしかない。主人公が森の中で迷ったあげく、遠くの方から聞こえてきた助けを呼ぶ声。そんなシーンでしかない。

とりあえず、私は二つの方向から切り口を求めてみたい。一つは情報「整理」から、もう一つは情報「発信」から。最終的にそれらがブリッジングされたらたいへんに嬉しい。

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