「星の王子様」の中でキツネがこんな事を言っています。
人間たちはもう時間がなくなりすぎて
ほんとうには、なにも知ることができないでいる。
なにもかもできあがった品を、店で買う。
でも友だちを売ってる店なんてないから
人間たちにはもう友だちがいない。
あなたは「時間」をじゅうぶんに持っているでしょうか?
果てなく続く忙しさ
11月28日にFind the meaning of my life.に興味深いエントリーがアップされていました。
・【Crazy Busy】についての考察2:ヒント-結びつきを選択して死守する-
※このエントリーは「【Crazy Busy】についての考察1:問題提起」というエントリの続きになっています。
記事の中でKazumotoさんは
仕事術、生活術に関連した書籍の多くは「物事を整理する必要性」を強調しています。しかし整理しても忙しさが減らないというのは何故か?という疑問が生じたわけです。身辺が乱雑になること、仕事が整理できていないことは大きな問題だと思いますが、どうやら整理できていないことそのものが忙しさの原因では無いようです。体重を減らすことが幸せへの鍵ではないのと同じことかもしれません。痩せていても不幸な人は沢山いるのと同様、きちんと整理されていたとしても、まだ現代生活に急かされているように感じる人もいるというわけです
と書かれています。「物事を整理しても忙しさが減らない原因は何か?」という疑問、これは物事の本質に迫る疑問だと思います。
出発点としては忙しさを減らすために整理を始めたのに、気がつけば忙しさは前と変わらない、あるいはそれ以上の忙しさが目の前にある状況。皆さんにも経験はないでしょうか。本末転倒と言ってしまえばそれまでですが、なぜその様な状況になるのでしょうか。
考えられる理由は3つあります。
・新しいツールは新しい「時間」・「情報」を必要とする
・空いた時間の使い方が明確でない
・「忙しさ」に魅力がある
新しいツールは新しい「時間」・「情報」を必要とする
新しく整理を始めようとする場合の多くは、書籍なりブログなりで知ったツール(システム)を導入する、となるでしょう。当然、そのツールの使い方を習得するための時間が新しく発生します。
また、そのツールが魅力的で多くの人間によって使われているならばウェブ上で流れている情報も多いことでしょう。上手く、有効に使いこなしたいと思えば、そういった情報をフォローすることでしょう。これらは時間活用の面において一種の負担の発生といえます。
新しいツールを使うことで得られる時間短縮のメリットと、新しく加わる負担を比べてみて後者の方が多ければ当然空き時間は増えません。むしろ減る場合もありそうです。
空いた時間の使い方が明確でない
うまく整理が機能して、空き時間が生まれたとします。しかし、それだけでは十分ではありません。空き時間をうまく使わなければいけないのです。例えば
・空いた時間の使い方が前もって決まっていない
・空いた時間の使い方が分からない
・空いた時間が見えない
このようなとき、空いた時間があったとしても有効に使うことはできません。有効に使えなければ、別の仕事を入れてしまったり、何か知らない間に時間が流れていったりしてしまいます。
「忙しさ」には魅力がある
「忙しい」は多くの人が嫌う状況ですが、しかしある種の人々にとっては魅力が存在する、というと驚かれるでしょうか。
忙しい状況に身を置いていると、「他人から必要とされている感覚」を味わうことができます。あたかも自分が敏腕で、誰からも求められる人材である、という感覚が「忙しさ」と結びついてしまうわけです。
オリバー・ウェンデル・ホームズはこう述べています。
すべての人間は倦怠である、ただし、かれらを必要とする時を除いては。
必要とされると、人は活動的になります。活動的つまりポジティブなエネルギーが満ちている状況は望むべき状態です。人から必要とされることでその状態が生み出されます。
しかし、その「人から必要とされる感覚」が「忙しさ」と結びついてしまうことで、人はいつまでも忙しさの中から抜け出すことが出来なくなってしまうわけです。
自分のアイデンティティが「忙しさ」に関連付けられてしまう、と言い換えることもできます。そういった人たちにとっては、空いた時間は不道徳な感じすらしてしまうかもしれません。結局いつまでも手帳の空白のスペースは生まれず、次から次へと予定を入れてしまうことになってしまいます。
本当に大切なスキル
いくつかの理由を挙げましたが、そこには根底となる大きな原因が存在しています。
それは「自分の中の大切な事が整理できていない」ということです。
・ツールに関しては、そのツールを使って何を実行したいのかが明確になっていないから情報をうまく制御できない状態を作り出してしまっています。
・空いた時間の活用においては、自分にとっての大切なことがはっきりしていないので、空いた時間を有効に使うことができません。
・忙しさの魅力については、明確な自分の軸が存在していないため、アイデンティティが忙しさに染められてしまっているわけです。
成功者の整理術は、自分の中の大切なものと、そうでないものを取捨選択していた結果できたものです。ある人にとっては物理的空間の確保が最重要、別の人にとっては定時で帰れるスケジュールが必要、また別の人にとっては・・・
まず、自分の中に明確な軸があって、それを実現するためにはどうすればよいかを考えた結果でてきたのがツールやメソッドです。そこを抜きにしてツールを有効に活用することなどできません。
本来、新しく整理を始めようと思う人が一番最初に行うべき事は「自分自身の価値観の整理」です。今あるものは本当に必要なのか。自分が最終的に求めているものはなんなのか。
このような問いかけに対して答がだせていないと、適切なツールを見つけ出すことも、それをアレンジすることもできません。逆に、自分にとって必要なものが理解できていれば、それが軸となって新しいツールやメソッドを考え出すことができるかもしれません。
上手く整理できている人、人生に余裕を持って対処できている人は、準備として自分にとって何が大切さがきちんと取捨選択されています。整理にとって一番必要なスキルは、「価値観の整理」に尽きるでしょう。そこから必要な物、そうでない物の選択が導き出されていきます。
まとめ
時間を有効に使っていない人間こそが、時間がないとグチをこぼす
これは、ジャン・ド・ラブリスの言葉ですが、時間がないとグチをこぼす前に自分の人生で何をなすべきか、何をなす必要はないのか、をしっかりと見つめて「得る」、「捨てる」の決断を行っていくことが不可欠なのではないでしょうか。
※いかにして自分の価値観と向かい合うのかは、別のエントリーで書きたいと思います。
参考文献
星の王子さま |
|
![]() |
葉祥 明
ゴマブックス 2008-11-04 おすすめ平均 |
はじめてのGTD ストレスフリーの整理術 |
|
![]() |
田口 元
二見書房 2008-12-24 おすすめ平均 |
拙ブログの記事を取り上げていただいてありがとうございます!大変刺激に、勉強になりました。
「忙しさには魅力がある」という指摘は目から鱗でした。なるほど忙しくしている自分に自己陶酔している、自分は「できるヤツだ」と勘違いさせる麻薬的な作用は確かにありますね。
「価値観の整理」これは今や非常に難しいスキルなのかもしれないと思います。学校教育では確固たる価値観を持つことを禁じますから。組織に属してしまうと特に、自分を殺すという処世術を学んでしまう気がします。その方が「できる」と評価される傾向も何故か有ると思います。
別のエントリー、興味深く待たせていただきます。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。
>kazumotoさん
こちらこそ、興味深いエントリーを上げていただいた事で触発されました。ありがとうございます。
最近、定年退職された方が「やる事が見つからない」とおっしゃるのも、長年自分なりの価値観と向き合う機会がなかったからではないだろうか、などと考えております。
今までの社会ではそれほど重要視されていなかったスキルなのでしょうが、今後は大変重要なものになっていくのだろうと思います。