「タスク」の研究

リストと〈ゲートキーパーの法則〉

前回:バベルのタスクリスト

青年 つまり、実行できるタスクとそうでないタスクがあって、そうでないタスクを並べたところで、やる気が湧いてくるわけではないとおっしゃるわけですね。

徹人 もう少し言えば、実行したいと思えるタスクとそうでないタスクがある、というところかな。私たちの目がインクの染みを捉え、それを文字だと認識し、意味内容を汲み取った後で、それを「自分のタスク」だと感じるかどうか。それこそが肝要なんだよ。

青年 自分のタスクとはなんですか。

徹人 言葉通りの意味だよ。「やろう」という気持ちが感じられるもの。そういうものは実行できる。そうでないものは実行できない。こういう理屈は軍隊では通用しないかもしれないが、──自分で自分を軍隊のように扱いたいのでないかぎり──自分の行動管理では大いに通用するのさ。

青年 だったら「やるべきこと」はどうなんですか。それができなければ大変なことになるでしょう。

徹人 「やるべきこと」を「やろう」と感じられるならやったらいい。それが感じられないか、あるいは逆に「やりたくない」と感じるなら、それをやらないならどうなるだろうかと考えてみたらいい。大変なことになる? それはいったいどんなことだね。君は政府のエージェントか何かなのかい。

青年 だったらあなたは、やりたくないことは一切やらなくてよいとおっしゃるのですか。そんな理屈は、あなたのように書斎に籠もっていられる人間だから言えるのではないですか。そんな意見は断固として受け入れませんよ。

徹人 これはなかなか手厳しいね。たしかに私が優遇された環境にいることは否めない。裁量も多く持っているよ。でも、私だってやりたくないことの一つや二つはあるし、それを実行に移さざるを得ない場面はあるんだよ。

青年 たとえば、どんなことです。

徹人 そりゃ、歯医者に行くとか月末に請求書をまとめるとか、無意味としか思えない会議に出るとか、いろいろだよ。君も、そういうタスクはいっぱいあるんじゃないかな。

青年 もちろんありますよ。そうしたとき、あなたはどうするんですか。

徹人 簡単だよ、考えるのさ。これをやらなかったら、どうなるのかってね。で、やらなかったらまずいと思うことは、タスクリストに載せる。そうでないなら、載せない。どうだい簡単だろう。

青年 そうやってタスクを実行するたびに、いちいち判断するわけですか。

徹人 まさか。そんなことをしていたら、どんなタスクだって実行できなくなるだろうね。実行するときは何も考えないか、いかにそのタスクをうまくこなすかだけに集中するよ。考えるのは、リストに載せる前の話だ。今の自分がやりたいと思うこと、あるいはやった方がいいと感じられること。それを見極めてリストに入れる。それ以外は入れない。そういうルールを守っている限り、リストはなかなかうまく機能してくれる。私はこれを〈ゲートキーパーの法則〉と呼んでいるよ。

青年 それで問題が解決するんですか。とても信じられません。

徹人 もちろん、解決する問題もあるし、そうでない問題もあるね。でも、解決できないにしても、そこに問題があることは把握できる。それはどう考えても重要なことだよ。そうは思わないかい。

青年 問題の把握? 何に関する問題ですか。

徹人 そりゃ自分自身だよ。あるいは、自分と置かれた環境の齟齬と言ってもいい。実を言うと人間はね、自分をやる気にさせることができてしまうんだ。なんといっても嘘をつくのが得意な動物だからね。自分で自分を鼓舞して、前に進んでいってしまう。

青年 素晴らしいことではありませんか。克己心こそ、人間の美徳の一つですよ。

徹人 君はそれを克己心だと言うのかね。私には自己欺瞞にしか思えないのだが。

青年 なぜです。あなたは人間の進歩を否定なさるのですか。

徹人 話が飛躍しすぎているよ。もう少しゆっくり行こうじゃないか。ときに君、小さな子どもと一緒に遊んだことはあるかい。

青年 兄弟や親戚がいなかったので、あまり経験はありません。

徹人 そうかい。じゃあ、私の体験を話そう。小さな子どもというのはね、自分の行動が褒められると喜ぶんだ。そして、その行動をもう一度繰り返そうとする。そうしたら、また褒める。すると、どんどんそれが加速していく。その子どもが、その行動に適性があるとか、相性が良いとかはまったく関係なくね。それってちょっと怖いことだと思わないかい。

青年 その感覚はなんとなくわかります。恐怖的ではないにせよ、パターナリズムの香りがしますね。押しつけがましくないパターナリズムというか。

徹人 言い得て妙だね。ぜひメモさせていただこう。

青年 あいかわらずのメモ魔ですね。

徹人 私にとっての良く生きる秘訣の一つなのさ。『メモは人生を変える』。どうだい、ベストセラーも見えてきそうじゃないか。

青年 タイトルより先に実績が必要でしょう。どうみても、あなたは社会的成功は収めていないのですから。

徹人 ははっ、たしかにその通りだね。それはともかく、そのような〈押しつけがましくないパターナリズム〉が自分自身に対しても起きてしまう。やりたい気持ちも、やった方がいいという気持ちもいっさい関係なく、「これはやることだから、やるのだ」というだけで実行が生まれてしまう。それはとても怖いことだ。だから、考えるのさ。他でもない自分自身でね。

青年 正しい答えが出せる保証はあるのですか。

徹人 もちろん、ないよ。だから、考え続けるのさ。常に考えるようにしておけば、道が逸れてしまったときでも元に戻せるチャンスが生まれる。逆に、一度決断してその後はまったく考えを捨てるなら、二度と後戻りはできない。私たちは考えても間違う。だからこそ、考え続けるわけだ。

青年 そうすれば、タスクリストもうまく作れる、と。それがあなたの主張なわけですね。

徹人 おおむねそう言っていいだろう。リスト作りと実行を繰り返していくと、徐々に自分がどういう状況ならスムーズに着手できて、どういう状況ならまったくやる気にならないか、というパターンみたいなものが見えてくる。君のように聡明なら、そこからある種のノウハウみたいなものも見出せるだろう。が、そのノウハウ自体が重要なわけではない。自分の状態に、自分の関心が向いていること。それこそが一番重要なファクターなんだ。それが確立されているなら、多少の困難だって問題にならないだろう。少なくとも、そういう感触みたいなものは得られると思うよ。

青年 おっしゃることの意味はわかりますが、それでも自明な話だとはとても思えません。

徹人 それで構わないよ。というか、それが健全だろう。この話については、あまり頭で理解しようとは思わないことだ。実際にやってみて、感覚的に確かめていくこと。自分の心の状態に注意を向けるようにすること。そのヒントを得るためにタスクリストは役に立つ。

青年 あるいはメモも?

徹人 はははっ、そうだね。あるいはメモも役立つかもしれない。

青年 わかりました。ともかく一度自分で試してみます。その結果次第では、またお伺いするかもしれません。

徹人 いつでもどうぞ。お茶を準備して待っているよ。

(おわり)

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