5-創作文

カレーの美味しい和菓子屋

二代目が継いだばかりの和菓子屋はあいかわらず美味しかった。技は引き継がれ、新しい技法も試されている。将来にも期待ができそうだった。

二代目は、美しく若い女性と結婚していた。料理研究家ということで、道は違えど通じる何かがあったのだろう。二人は、とても仲が良さそうだった。

あるときに、二代目が突然思いついた。「おまえさんのカレーは日本一だ。俺だけが食べてるなんてもったいない。どうだい、うちで売ろうじゃないか」。斬新な発想を好む二代目らしい思いつきだったが、少々ひねりにかけていた。ほかにもやりようはいくらでもあったはずだ。カレーペースを練り込んだ新規軸の和菓子だとか、あるいは別の場所に店舗を構えてカレー屋を開くとか。

しかし、二代目はそんな発想を思いつきもしなかったようだ。あるいは、思いついていてなお却下したのかもしれない。平等。そう、これは平等性の問題なのだ。彼女を和菓子の下に置くのはよくない。あくまで対等の立場として、同じ場所で、商売をするのだ。

そこで、和菓子屋でカレーの販売が始まった。持ち帰り用の弁当に加えて、店内でも簡単に食事ができるスペースを設けた。

二代目の味覚は正しかった。そのカレーは絶品だった。誰にも文句がつけられないくらいに美味しい一品で、たとえ2000円であっても喜んで支払う人間はいただろう。

しかし、問題はその匂いである。どれだけ小細工をしようが、カレーは強い匂いが伴う。店内はカレーの匂いで充満していた。とても、和菓子の繊細な香りを楽しむような空間ではない。

結果的に、和菓子はどんどん売れなくなっていった。それに反比例するようにカレーは人気が集まり、店内はいつもお客さんで一杯だった。行列が途切れる日はなかった。

少しずつ、和菓子の陳列スペースが小さくなり、食事用のテープルが増えていった。販売スタッフも一人、また一人とカレー提供のスタッフへと変わってもらった。もう二代目ひとりで十分回せる販売量だった。

最終的に、店内からは和菓子の販売スペースはなくなり、カレーメニューの下の方にデザートとしていくつか提供されることになった。しかし、カレーと一緒に食べたい和菓子というのはなかなかない。最初にメニューに載っていた和菓子も、少しずつ姿を消していった。

二代目は、その間じゅうずっと考えていた。考えに、考え続けていた。

最終的に、どう考えても和菓子屋としか思えない店名のカレー屋は大成功をおさめた。何度も大手商社からチェーン店化のオファーが来たが、そのすべてが却下された。

そのとんでもなく美味しいカレー屋のメニューには、ほかのどこにもないデザートが載っていた。日本風の、しかし和菓子とは呼びづらいデザート。抜群にカレーに合うそのデザートは、繊細な工程を必要とするので大量生産には向かない、というのがチェーン店化を断った最大の理由だった。

今日も二代目は考え続けていた。あいかわらず、二人はとても仲が良さそうだった。

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