2-社会情報論

ご注文は失敗ですか?

最近、日常的に思いついたことは、ささっとorg-modeのファイルに書き込むようにしている。

日ごとに項目を立て、そこに思いつきを記し、必要とあれば項目を別の場所に移動する。アウトライナー的な使い方である。

箇条書きの「見た目」を伴わないので文章が書きやすい、というメリットがあって気に入っているのだが、問題はモバイルである。emacsベースのこの環境を、iPhoneで再現するのはなかなか難しい。出先でちょっと「さっき考えたこと」について考えたくなったときに、わりと困る。

とは言え、.orgの中身は単なるテキストである。でもって、.txtをorg-modeで開くこともできる。だから、ファイルをDropboxフォルダにでも保存しておけば、iPhoneからでも閲覧・編集は可能である。出先の閲覧で複雑な操作が必要になることはないので、まあ、それでもいいだろうと割り切ることはできる。

さて、先日Ulyssesを再び使い始めた。マークダウンタイプのテキスト・ライブラリツールである。以前から感じていたことだが、やはり動作が軽い。iCloudベースで動機してくれるので、Macでちょこちょこっと書いた文章をiPhoneで開くときに非常に快適である(ちなみに、標準の「メモ」アプリもかなり快適である)。

ここでむくむくと欲望が湧き出てくる。この快適さを、org-modeにも持ってこれないだろうか。

調べてみると、UlyssesはiCloudだけでなく、Dropboxのファイルも管理できるらしい。Ulyssesで扱うファイルは.mdだが、これだって中身はテキストファイルだ。ということは、どちらかをごちゃごちゃうにゅうにゅすればすばらしい環境ができるのでは?

まず、.mdファイルでもorg-modeが使えるようにする。これはすでに.txtファイルでもやっていることなので問題はない。

次に、そのファイルをDropboxに保存し、Ulyssesで扱えるようにする。これも難しくはない。

問題は、マークダウンの記法だ。他のその他は別に構わないが、見出しの記法がorg-modeとマークダウンで異なっている。org-modeは* hogeだし、マークダウンは# hogeだ。

調べてみたが、org-modeにおいて、*を変更する方法は見つからなかった。では、Ulyssesはどうか。こちらは、マークアップの方式をカスタマイズできると言う。素晴らしい。実際やってみると、たしかに記法を指定できる。

これを使えば、うまくorg-modeと、Ulyssesを接続できるではないか! と思ってやってみたら、なぜだかうまくいかない。可能なはずの、マークダウンの変換が表示されないのである。

続けて調べてみると、このカスタマイズされた記法が使えるのは、「iCloudで管理しているファイル」のみであるらしい。なんてこった。この時点で、当初のコンセプトはまるっきり崩れてしまった。

もちろん、記法にさえこだわらなければ、このブリッジング可能である。

試してみてわかったが、Ulyssesは別に.mdでなくても.txtのファイルを拾ってくれる。でもって、若干表示が見にくいことを別にすれば、これで特に問題はない。なぜならiPhoneで激しい編集をしたいことはないからだ。ちょっと開きたいだけなのである。

一方で、私のorgファイルは、日々の思いつきと、書きかけの原稿と、企画案といったものが一カ所に集まっている。普段はそれぞれの下位項目を閉じているのでスッキリしているが、それを一枚のファイルとして開いたら、とんでもなく縦に長いことになる。これは、基本的には使えない。つまり、仮に記法の部分がうまく変換できたとしても、実用性はさほど高くない、ということがわかった。

そうなのである。これは失敗の話だ。そして、その失敗の話は、私がこうして意図的に開示した場合を除いて、基本的にはシェアされない。今回言いたい話はこの点である。

私は当初、「このブリッジングがうまくいったらブログか何かで書こう」と思っていた。しかし、結局それは望む結果とならなかった。よって、記事としてもボツである。

が、その失敗という結果に至るためにさまざまなことを調べたし、その中で得られた知見も結構ある。しかし、そうした情報たちは、結果の失敗という一時を持って、すべて闇に葬られてしまう──というのはいかにも大げさだが、成功した情報と同じようにはシェアされない。少なくとも、ある基準をもったブログ記事などではまず出てこない。

その是非については議論の余地があるだろう。失敗があえて発信されないことで、ノイズの数は減らせる。『Dr.Stone』を観ていてもわかるが、科学とは一つの成功のために、数百、数千の失敗を積み重ねる営為である。その失敗をいちいち発信していては、情報の数は莫大になり、必要なものが探しにくくなる。だから、やめるべきだ。そういう論立てもあるだろう。

一方で、今回書いたように、失敗に至る道のりの間にも得られた有用な知見はある。その知見は、今回私が為そうとしたことには直接役立たないかもしれないが、別の場面での出番はありうるだろう。そういう可能性を広げていくことには意義があるのではないか。そう擁護することもできるはずだ。

その議論のどちらに優勢があるのかはここでは吟味しないが、それでも、「成功」ばかりが語られ(あるいは注目され)る中では、どうしても情報の分布に偏りが生まれるのではないか、という心配は残る。メディアの需要の傾向が、語られないものをたくさん生み出しているのではないか。そういう危惧は、余計なお節介なのだろうか。

とりあえず、私としては「成功」の話以外も、どんどん記録として残していこうと思う。たとえその場所が、ブログではないにしても。

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