Scrapboxの用法

ScrapboxがMarkdownでなくて本当に良かった

Scrapboxを使い始める前は、メモ書きにもMarkdownを使っていたし(主に見出し用)、いまでも電子書籍などまとまったドキュメントを作るときは、Markdownが活躍している。しかし今では、ScrapboxがMarkdownを採用していなくて本当に良かったと感じている。

もちろん、最初は私も「## hogehoge」と書いてしまい、##だけが赤字のリンクになってしまうのを、「ああ、シット」と感じていた。もうちょっと言えば、そこに不便さがあった。でも、今はもうそんな気持ちはぜんぜん感じていない。Scrapboxを「Scrapbox的」に使えば、見出しの必要性はほとんど感じられなくなる。最近は、太字すら使わなくなった。普通のテキストと、階層化。それにページへのリンクがあればそれで事足りる。そういう使い方にシフトしてきている。それは、情報ツールの使い方からすると、結構大きな変化だ。

ページの粒度とサイズをできるだけ小さく保ち、断片的・独立的・オブジェクト的に記述し、それをリンクでつないでいく。それによって、広がる知見のネットワーク。これまでの情報ツールでは得られなかった、特異な情報環境を手にできている。まったく質の異なる「情報の扱い方」を身につけることができた。

もちろん、それまでに用いていた、ドキュメント的な情報の保存法が劣っているわけではない。あるいは、(この記事のように)ある切り口を持って情報を語ることの意義もいまだ厳然と存在している。単に、「新しい方法」を手にできたのだ。それによって、軸の異なる情報の活かし方にアクセスできるようになる。それはすばらしい体験と言えるだろう。

「それはそうだとして、別に## hogeで見出しになってもいいんじゃね?」

そんなツッコミもあると思う。たしかに、原理的に言えば、そうした見出し記法を実装したScrapbox的なツールというのはありえるだろう。しかし、問題は私たちだ。私たちという人間存在だ。経路依存し(≒経験に強く左右され)、しかも、道具を自分の支配下に置こうとする私たちは、きっとそんな風にイノセントには道具を使えない。

間違いなく、Scrapboxで、## hogeという記法が使えたならば、私はドキュメント的な記述の方式にこだわり、「Scrapbox的」な情報の扱い方には近づこうとしなかっただろう。なにせそれは異質なものであり、慣れないものであり、手を出したくないものだからだ。未知は恐怖の源泉でもある。

Scrapboxがアウトライナーのように下位項目を隠せたら、付箋のようにページを自由移動できたら、全体像を把握するビューを提供したら、きっと私たちは、Scrapboxを「それまでのツールで可能だった使い方」で使ってしまうだろう。マヨネーズが好きな人が、なんでもマヨネーズをかけて食べるかのように、「自分のそれまでの使い方」においてツールを支配下におき、そのツールが独自に提供してくれる情報管理法に親しむことは無かっただろう。

そして、そのツールはいつでも別のツールに代替できる存在になってしまう。それは誰にとってハッピーなことなのだろうか。

Scrapboxはwikiである。そのことは言語としては理解できるが、しかし「どう使うか」の実感まではリーチしない。だから、私たちは自分が知っているツールの使い方で、それを代替しようとする。そのことは基本的には避けがたい。人間は習慣の動物であり、パターンの動物だからだ。よって、過去のパターンを再現しようとするのは、実に自然な反応なのである。その自然な反応に水を差すのが、「ひっかかり」である。

Markdownが使えない(あるいは、他のツールでできるようなことができない)ことによって、ユーザーはそれでも可能な情報管理法を模索しようとする。そのツールにおいて、最適なやり方を探ろうとする。つまり、「ひっかかり」が迂回を促し、別の回路へと接続させる。そういうことが起こりうる。

しかも、その探索は、自分の手を使って行われるので、その過程において、そのやり方が「身について」いく。知識として学んだわけではなく、実践を経由しているので、把握と理解と実行がセットになっている。誰から説得されるまでもなく、Markdownが使えなくても不便ではないことを理解し、そのようにページを書いている。

もちろん、その道のりが真っ直ぐでないことは明らかだ。動く歩道のように乗っていれば、目的に到着しました、という類のものではない。しかし、すべてのツールがそのように設計されるべきなのかは検討の余地があるだろうし、またそのような道行きでは、私たちは常に「過去の自分の使い方」に制約されてしまう可能性が残される。飛躍には、ひっかかりが必要なのだ。

だから私はScrapboxがMarkdownでなくて本当に良かったと思っているし、これから実装して欲しいとも感じていない。Scrapboxを「Scrapbox的」に使っている人は、きっと同じように感じているのではないか。

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