5-創作文

ダメダス王の手

男は欲した。手にできるものはなんでも欲した。そのためなら、あらゆる努力も呪術もいとわなかった。

やがて、彼は神に願った。もともと彼は恵まれておらず、手にできるものはあまりにも少なかった。神に願うしかなかった。

神は彼の願いを聞き入れた。ある日、彼はその声を聞くともなしに聞いた。「求めるものに触れるがよい。それで得られる」

彼は神から特別な力を授かった。しかし、それは呪いでもあった。

彼が手に触れさえすれば、それは彼の所有物となった。お金でも、道具でも、土地や奴隷でさえそうなった。その瞬間にガラリと世界のルールが書き換えられたように所有する権利が彼のものとなった。触れられる寸前まで所有者であったものは、触れられた瞬間快くそのものを彼に渡してくれた。まるで、拾い物の財布を本来の持ち主に返すみたいに。

彼は欲するものを、触って回った。そのたびごとに彼は手にするものを増やしていった。世界は書き換えられていたが、そんなことをまるで気がつく風もなく、これまで通り生活は回っていた。

特別な力を手にした彼は、しかしまったく満足していなかった。あれほど欲していた道具たちが、まぶしく光り輝いていた宝石たちが、手に触れ自分のものとなったとたんに色あせてしまう。めまいのするような大金でも、100人力の奴隷でも、類することのない土地でも同じことだった。手にするまではひどく欲しい。しかし、手にしてしまえば無価値になる。海水を飲まされ続けるようなひどい苦しみが彼を苛んだ。それが神が与えた能力の代償だった。

彼は狂ったようにあらゆるものを触りまくった。手にしても、決して価値がなくならいものを探して回った。しかし、どれだけやっても結果は変わらなかった。手に触れられるあらゆるものを手にし、しかし彼は何も手にしていなかった。価値のあるものは何も。

狂気じみた彼は、世間からも疎まれ始めた。彼の強奪には誰も気がついていなかったが、しかし彼の立ち振る舞いが傲慢であることは誰の目にも明らかだった。彼は人々が大切にしているものを見せるように要求し、それが叶わないときは、家屋を我がものにし、それでもダメなら奴隷にした。そこまでやっても、彼は手にしたものをぞんざいに扱った。その姿は疎まれるには十分だった。

彼はますます多くのものを手にし、ますます孤独になっていった。彼の領土はすさまじい勢いで広がり、それともに無価値なものも増大した。

彼は痛みのような孤独の中、神を呪った。忌まわしき能力を授けた存在に向けて、思いつく限りの罵倒を並べた。しかし、神は無言だった。そして、神は触れられぬ存在でもあった。彼が神を手にすることはなく、神からの抱擁が彼を包み込むこともなかった。

空虚さで満たされた彼は、静かすぎる屋敷の中で、一人佇んでいた。彼の中に価値はなく、彼の外に価値はあった。その境界は、どうあがいても変えようはなかった。ただ拡大していくだけであった。

その事実を受け入れた彼は、ゆっくりと、それこそ卵でも扱うみたいに、自分の体を自らの両手で抱きしめた。彼の手によって彼は無価値になり、境界線は静かに壊れていった。そのとき神はたしかに微笑んでいた。

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