7-本の紹介

【書評】『在野研究ビギナーズ』(荒木優太 編著)

2016年に『これからのエリック・ホッファーのために』という本を紹介した。独学の社会哲学者として名高いエリック・ホッファーを旗印にし、16人の在野研究者の在り方をあぶり出した本だ。

位置づけるとするならば、本書はその後続となるだろう。

在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活
荒木 優太
明石書店 (2019-09-06)
売り上げランキング: 393

(著者様よりご献本いただきました。ありがとうございます)

ただし『これからのエリック・ホッファーのために』がかつての在野研究者を題材にしていたのに対し、本書は今を生きる現代の在野研究者が中心である。だから、前著とは違い著者が文献から話を解き明かす、というスタンスではなく、それぞれの在野研究者が稿を寄せ、インタビューに答える形になっている。

おかげで本書は実にバラエティー豊かだ。皆が一様に同じ方向を向いているわけではなく、置かれた環境ややり方はさまざまに異なる。認識として自分は「在野研究者ではない」という人たちさえいる。

それでも、どこかしら共通して感じるものがないわけではない。それはある指向性とも呼べるものなのだが、その言葉からイメージされるようなまっすぐなものではない。前著で出てきた〈あがき〉という言葉が近いだろうか。少しの屈折、少しのシニカル。そうしたものが濃淡はあれど感じられる。

もちろんそれはそうだろう。日本社会が規定する「研究者路線」にぴったりフィットした生活ではないのだから、その状況をイノセントに言祝ぐことはできない。しかし、だからといって何もかもを投げ捨て虚無の穴に嵌り込んでもいない。それぞれの研究者が、自分なりのやり方で、自分の進む道を肯定している。というか、自分で肯定するしかないのだ。だからこそ、そこにはシニカルさが宿り、しかしそれ以上の強さや前向きさも併走する。その感覚が、どの在野研究者の話からも感じ取れる。

そしてこの話は、たとえばブロガーに引きつけることもできるだろう。

論文の生成を目指していないとは言え、ブロガーも「研究のようなこと」をよくやっている。それはお金になるものではないし、マスから賞賛されるものでもない。ただやりたいからやり、ごく少数の人間が受け入れてくれているから続ける。そのような活動である。

本書の副題は「勝手にはじめる研究生活」だが、ブログだってそうなのだ。誰かの許可も、資格もいらない。勝手にはじめてしまえるし、そこで何をやろうが自分の勝手である。だからこそ、その活動は、まず自分で肯定できなければ続かない。その点は、在野研究もブログも同じなのだろう。

というか、現代で改めて在野研究に注目が集まるのは、ブログのような個人メディアを容易く開始することができ、さまざまな人とコミュニケーションができるSNSがあり、多様な情報を家にいても引っ張ってこれる情報環境があるからこそではあろう。その意味で、在野研究者とブロガーは重なる部分が多い。まったく別の出来事というよりも、一つの現象の二分かれの出来事という感触である。

そして、ブロガーがそうであるように、在野研究者もまたロールモデルはない。少なくとも、はっきりしたそれはない。本書でも、さまざまな研究生活のやり方が提示されているが、であるがゆえに「こうすれば在野研究者になれますよ」とはっきりした一つの方法は見つからない。というか「勝手に」はじめていいのだから、勝手にはじめればいいのだ。ロールモデルを探している暇があるなら、研究した方がいい。

しかし、たとえそうであっても、「ヒント」は大切だ。在野研究者は、独学者になりがちで、研究生活そのものについての情報がまったく入ってこない。在野研究は極めて自由であるがゆえに、自分の知識の限界が活動を規定してしまう。その意味において、他の在野研究者の話を聞くのは魅力的であろう。あるいは、「こんなことをしてていいのだろうか」といった不安も(多少は)払拭してくれると思う。

とは言え、本書を読めばグイグイと前向きな希望が湧いてくるというわけでもない。むしろ、人によっては「在野なんて辞めておこう」とすら思うかもしれない。自由に研究できるメリットは大きいが、仕事と並行して研究を続けていくことにはどうしたって苦労が伴う。

それでもなお。そう、それでもなお自分の知的好奇心の手が止まらないのであれば、在野研究者も一つの、そして魅力的な選択ではあるだろう。

最後に、収録されている「趣味の研究」(工藤郁子)から一文を引いておく。

変革期を迎えた日本の研究環境は厳しい。領域全体の持続性すら危うい分野もある。我々がよく在れるように、手元にあるカードを確認し、変化に応じ、戦略として自立し、戦術として群れよう。どうせここは元から地獄だ。だから、この地獄を大いに楽しもう。

皆様の地獄に幸あらんことを。

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