「タスク」の研究

「時間を作る」の極北

「時間を作る」という表現がある。

もちろん、何かの元素を合成して、物理でTと表現される何かを生成するわけではない。そんなことをしなくても、私たちにはいつでも時間が1秒毎に流れ込んでくるし、むしろそれ以上のことはできない。むしろ、私たちの意識が流れている方向を単に時間と呼んでいるだけかもしれない。

が、そういうややこしい話を抜きにして、日常的に「時間を作る」という言い方をする。おおよそ、以下の二つの意味合いがある。

・ある目的のために予定を作ること(スケジューリング)
・ある目的のために存在する時間を別の目的に割り当てること

同僚が歩いてきて、「ちょっと打ち合わせしたいんだけど、時間作るれる?」と聞いてきた場合は、一つ目が含意されている。対して、「英検の試験が迫っているので、できるだけ時間を作って単語を覚えよう」と決意するときなどは、主に二つ目が含意されている。

後者については、たとえば、パソコンの再起動の時間など、普段ならぼけーっとしている時間などに、書類をチェックしたり、本を数行でも読む、みたいな場合にも適用できるだろう。いわゆる「隙間時間の有効利用」というやつだ。

たとえ国家錬金術師であっても、時間を無から生成することはできないので、私たちが「時間を作ろう」とする場合は、基本的にこの二つくらいしか手立てがない。

一応、他人を雇う、より高速な手段を入手するなど、「お金で時間を買う」こともできるが、実際これは「やること」を減らしていると表現した方が近いだろう。「やること」をどけることで、時間の空白地帯を生み出した、という感じである。でもまあ、これも悪くはない選択だ。

■ ■ ■

さて、いかにもセルフマネジメント的な話からスタートしたのだが、ここで急ターンをかます。あるいは、軸をZ軸に移動する。

・ある目的のために予定を作ること(スケジューリング)
・ある目的のために存在する時間を別の目的に割り当てること

ということを、徹底的に繰り返していけばどうなるだろうか。私たちがその極限に至るとき、私たちの手持ちの時間はすべて「ある目的」のために使われることになる。まったく無駄のない、超効率(超伝導の効率版)な人生。それが待ち受けているだろう。あるいは、そのような要請が、成果を喫緊に求める社会から生み出されている、と文化的に考察することもできる。無駄は省き、もっと目的に向けて時間を使え、と。

そこでは、私たちは「ただ生きる」ということができなくなる。あらゆる時間は、あらゆる(意識的な)目的の支配下に置かれる。それが、「セルフ・マネジメント」の極北なのだ。

私たちが、目指したい場所はそこなのだろうか。

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だったらどうすればいいか。計画と呼べるものを一切手放し、セルフ・マネジメントにサヨナラを告げればよいのだろうか。

もちろん、そうは問屋が卸さない。社会や文化からの要求の声は大きく、あらゆるテクノロジーとプロモーションは私たちの意識に影響を与えるために日々研磨を続けている。なんのセルフマネジメントもなしにそこに飛び込むのは、ジャングルに裸で飛び込むことに等しい。そこでは別の極北が私たち待ち構えていることだろう。

だったら、どうすればいいか。「何もしない時間」を作るしかない。そう、ここには皮肉なまでのねじれがある。「時間を作る」ことから逃れるために、時間を作るしかない。一見これは矛盾に思える。しかし、だからこそ打開策になる。一見敵には見えない敵にトロイアは陥落させられてしまった。流れにあがらうのではなく、流れの中で行き先を選び取るのだ。

戦略はいろいろあるだろう。意識的にゆっくり行動する、あえて時間をかけてみる、待ち時間に何もしないことを選択する。珍しいノウハウではない。でも、その意義は、現代においてあらためて評価されてしかるべきだろう。

『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』の言い方を借りれば、セルフマネジメントの中に逃走線を引いておくこと。そこに「遊び心」を加えること。

まったく同じようなメソッドを実施していても、そうした「遊び心」の差異が、大きな違いとして発露することは珍しくない。いまさら時計を捨てる生活に回帰するのは不可能だろうが、遊び心を保ち続けることはできるように思う。極北ではない場所に、止まり続けるために。

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