物書き生活と道具箱

iOS14は手帳の夢を見ない

iOSを14にアップデートした。ウィジェット周りが大きく強化されて、ホーム画面がアプリへのショートカットだけでなく、情報的に意味を持たせられるようになった。

考えてみると、手帳的機能を持つアプリはiPhoneにたくさんあるのだが、しかし「iPhoneが手帳の代わりになる」とは言い難い要素があった。それがなぜなのか具体的にはわかっていなかったのだが、新しいウィジェットに触れてみて、その一端が掴めた気がする。

簡単に言えば、iPhoneでは、個々の情報を閲覧するためにはアプリを開く必要がある。つまり「一つ下の階層」に潜らなければいけない。その体験が、手帳と違っていたのだ。

手帳では、パラパラと情報を閲覧できる。フラットに横断できる。日付をまたぎ、月をまたぎ、種類の異なる情報を越境することができる。手でめくるという単一の操作によって。

しかし、iPhoneではアプリの切り替えが必要で、しかもアプリごとによってその操作が変わってくる。そこには全体としてのスムーズさはない。あるいは、統一感は立ち上がらない。どうしてもバラバラなことをしている感覚がつきまとう。

一方、iOS14のウィジェットは快適だ。ホーム画面をスワイプするだけで異なる情報を閲覧できる。この感覚は、実に手帳的である。特に、カレンダーとメモが気に入った。メモなんて、まさにこういう表示を求めていたと言っても過言ではない。

こうしてホーム画面に表示されるなら、たとえば「たまに思い出したい心構え」的なものをメモしておくこともできる。

そういうものは、特になんの操作もすることなく、折りに触れて目に入ることが大切なのだ。手帳であれば、冒頭付近のページに書いておいたり、付箋を貼り付けておけばそれが実現できた。しかし、iPhoneでは難しかったのである。

今回のアップデートで、ようやく「いちいちアプリを開かなくても、情報が目に入る」ようになった。スワイプで情報を渡り歩いていけるようになった。これで、iPhoneは手帳の夢を見るようになるだろうか。

おそらくそうはならないだろう。なぜなら、iOS14のウィジェットは、さらなる一歩を進んでいるからである。

たとえば、「写真」ウィジェットは、固定的に画像を表示しているのではなく、ランダムな(あるいは何かしらのアルゴリズムに基づいた)画像が表示されている。こちらが操作しなくても、画像が切り替わっているのだ。さすがにそれは手帳では難しい。

他にも、「ニュース」など外部の情報を取り込んで表示する機能もある。これも手帳では不可能だ。つまり、もうこの時点で手帳にはできないことが実現できている。もちろん、このウィジェットはさらに進化していくだろうから、どんどん機能的な乖離は広がっていくだろう。

だからどう、という話ではない。手帳よりもiPhoneの方が優れていると結論づけたいわけではない。むしろ手帳は、そのような情報の変異が起きないことがメリットなわけで、目指している方向がまったく異なるというだけだ。だから、iPhoneは手帳の夢を見ないし、手帳もまたiPhoneの夢を見ない。それぞれ別のツールとして進化を遂げていくだけである。

にもかかわらず、今回のiOSのアップデートは「手帳」的な手触りがあった。スワイプ操作だけで、情報を越境して閲覧していける体験。そもそも、すべて一台の端末に保存されている情報なのに、いちいちアプリを立ち上げないと閲覧できない、というのはすごく不便なのだ。なにもすべての情報を閲覧させろと無理な要求をしているわけではない。直近のもの、重要なものだけでも閲覧させてくれたら、それでいいのだ。

これまでの「すべてを見せるか、あるいは見せないか」という限られた選択に変わって、「必要そうなものだけを部分的に見せる」が採択されたのは、今後のデジタルツール・ガジェットの方向としては素晴らしいと感じる。なにせデジタルデータは、貪欲に増えていく。そのすべての閲覧は不可能に近い。しかし、たいていのことはいくつかの情報を確認するだけで事足りる。さらに情報が必要なったら、そこでアプリにアクセスすればいいのだ。

今後も、きっと楽しいウィジェットが増えていくだろう。便利さだけでなく、面白いウィジェットも増えることを切望する。道具というのは、そういう楽しみもあってこそである。

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