0-知的生産の技術

ライフハックと習慣的思考法

前回、ライフハックを以下のように定義した。

「人生(日常)に介入する小さな方法」

対象が「人生」を含むので、ライフハックは人間が扱うほぼすべての領域へと及ぶ。言ってしまえば、何だってライフハックと言えばライフハックとなるのだ。もちろん、「大きな方法」を除いて、という点は前回も確認した。

しかしながら、ここで「人生(日常)」という持って回った表現について検討してみよう。そうすることで、その考え方をもう少し狭くできそうだ。収束である。

人生と日々をつなぐもの

英語の「Life」は、人生という意味でもあり、日々(日常)という意味でもある。もちろん、日々の総体が人生であるのだから、この二つが一つの単語で表現されるのは何もおかしいことではない。

だから、たった一日の、ごくわずかな瞬間でも何かを変えたら、「人生を変えた」と言える。少なくとも、それは論理的に過ちであるとは言えない。

一方で、私たちが「人生を変える」といううたい文句に求めているものは、一秒だけの変質ではないだろう。もっと長期に及ぶ変化なはずだ。つまり、総体としての人生への影響だ。

しかし、ライフハックは「小さな方法」であった。いかにして、その小さな方法で、総体としての人生に介入できるのか。

それが「習慣」である。あるいは「習慣的思考」である。

ライフハッカーは言う。「一回あたりの効率化は5分ほどですが、それを一年間通せば、365日×5分の効率化が得られるのです」と。

これもまた論理的に正しい言説だ。一日ではたった五分でも、通してみれば、つまり総体としての人生で見ればその効率化の効果は計り知れない(いや、計り知れるのだけども)。

「日」の中にある小さな行動が繰り返される中で、より大きな、より上の階層へと影響を及ぼす。

そもそも、「日常」や「日々」という言い回し自体が、繰り返しを前提としている。日常に介入するということは、一日に介入するのではない。日々に介入することなのだ。

よって、ライフハックと呼べるもの、あるいはライフハック的なものは、小さな方法でありながら、繰り返されるものでもある。あるいは、繰り返し得るものである。

これは逆からも言える。小さなものであるからこそ、繰り返し得る。もしそれが大きなものならば、繰り返し自体が困難であり、苦痛であろう。それに耐えるのはライフハックとは言い難い。

習慣であるかどうか

そのように考えれば、ある行動や工夫であっても、それが繰り返しの中に埋め込めるかどうかでライフハックかどうかを峻別できることになる。

繰り返しの中に埋め込める、あるいは繰り返しの中にあることで(複利や創発のように)より大きな事象にリーチできる。それがライフハックである。

よって、習慣にまつわるさまざまがライフハックに含まれるし、また習慣的行為もまたライフハックに内包される。言い換えれば、習慣化の技術はライフハックを考える上で避けては通れず、習慣的な行為は必然的にライフハックへと近接していく。

この点は『独学大全』が冒頭でさまざまなセルフマネジメントの技法を紹介していることに通じるだろう。学問は一日にしてならず。人生もまた一日にしてならず。

直観できる変化

しかし、その「習慣的なものの効能」は、私たちの認知がもっとも不得意としているものかもしれない。複利の計算はすぐにはできないし、むしろ時間経つほどに実感できる規模とは乖離していく。さらに私たちは未来の価値を割り引いて計算する。習慣的効用の説明は、理屈では理解できても、実感としては腑に落ちない。そういうところがある。それは、おそらくほとんど万人に共通するところであろう。

だから、人は変わらないように思える。変わるのが難しいように思える。目に見える、はっきりした変化がないと、変わったと思えないからだ(*)。だから、ライフハックも小ばかにされる。そんなことは本質的ではないと。
*ライフハックに欠かせないものに「記録」があるのもこの点が関係している。

たしかにそうかもしれない。それは本質的ではないかもしれない。しかし、では本質的なものは何かと問われれば答えるのは難しい。一日5分の可処分時間を生み出すことが、本質的でないとしたら、私たちの生の本質とはなんだろうか。

ともかく、ライフハックと習慣は切っても切れない。むしろ、ライフハックとは習慣的な(習慣による)介入だと言ってしまってもいいくらいだ。日々から人生へと小さな方法で介入するには、習慣的力学を用いるしかない。あえてこういう言い方をすれば、一番それが「オーガニック」なやり方である。

よって、これからライフハック領域へと目を向けるが、そこに習慣というてこの原理が効いているかは、ぜひとも確認しておきたいところである。

(つづく)

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