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書評『独学大全』(読書猿)

Posted on 2020 年 11 月 4 日2020 年 11 月 5 日 by Rashita

本書は何なのか。

本書は大著である

本書は大著である。

まず物理的に大著である。書店で平置きされているよりも、棚差しの方がインパクトが強い本はそうない。ページ数も山盛りで、もちろん文字だくさんである。

しかし、それ以上に本書は大著である。「あとがき」にもこうある。

その意味で本書は、読書猿の主著というより、読書猿そのものと言ってよい。

私たちが愛読してきた読書猿Classicが物理的に具現化したのだ。これは大仕事であり、また優れた仕事である。大著だ。

本書は鈍器である

本書は鈍器である。物理的にではない(本で人を殴ろうとする人はあまりいない)。むしろ情報的にだ。

著者は痛いところを付いてくる。読み手をバカにしているわけではなく、私たち人間(特に凡人と自認する人たち)の愚かさをはっきりと指摘している。本書を読んで、夢見心地なできるビジネスパーソン気分を味わえる人はそういないだろう。親父さんよりも無知くんに自分を重ねるはずだ。

鉄は叩かれてその形を変える。ネットワークが成長するとき、必ず既存の構造を壊しにかかる。そのような痛みを避けて通れるならそれに越したことはないが、しかしどうして自分の愚かさに気づかぬまま、その愚かさから脱しようと試みるであろうか。直面しなければならないものは、たしかにある。

よって本書は鈍器である。読み手の心を打ち据える鈍器である。

しかしそれ以上に本書は、既存のとある書籍たちをけちょんけんちょんに打撃している。おいおい、この版元の本でそんなこと書いちゃって大丈夫なのかよと心配になるくらいだが、それこそが書籍(言説)の良いところだ。

本書は大全である

本書は大全である。独学の大全である。

一見すると、「学び方」がいくつもラインナップしているかのように思えるが、実際はもっと大きな土俵で「独学」を扱っている。つまり、学習法の列挙ではない。

大全の肝が、その網羅性にあるとするならば、著者は「人間が学び続けていくこと」を射程に入れて、本書の網羅性をデザインしている。

そう。学ぶことに終わりはない。人の知的好奇心は尽きることなく、世界の知見は矮小な人間ひとりに比べれば広大すぎる。さらに、知見は常にアップデートされており、日々新しい情報が生まれ続けている。学ぶことは、学び続けることなのだ。

だからこそ本書ではセルフマネジメントの技法がいくつも紹介されている。誰にも強制されることなく学んでいける独学は、実に細い道を歩んでいく行為であり、左側は怠惰が、右側が傲慢が待ちかまえいる。どちらかに触れればあっという間にその足は止まる。それが自由であることの代償だ。

だからこそ、続けることに注意を向けるのは大切である。いやむしろ、いしたにまさき氏の言葉を借りれば「やめないこと」が大切なのだろう。途中で挫折してもいい、合間に手が止まってもいい。そうしたとき、伏した気持ちになって、やがて立ち上がれる瞬間を待ち望む。そういう心構えで十分なのだ。

そもそも、何の挫折も経験しないで、自分がやろうと思ったことをそのままやり遂げられると考える方がよっぽど傲慢であろう(あるいは自信家であろう)。人間はそこまで強い生き物でもなければ、完璧な生物でもない。挫折はいつだって、誰にだって起こりうる。そこからなにかを得て、また立ち上がる機会をうかがえばいい。

しかし、ある種の書籍たちはそれを阻害する。「こうすればうまくいきますよ。失敗は避けられますよ」とほのめかす。私たちは損失回避の傾向が強く、そういう誘い文句に弱い。しかし、完璧な人間ではない私たちはやっぱり失敗する。そのとき、挫折を味わいたくないから、目を背ける。何がそれを引き起こしたのか、どうすれば改善し、異なったルートで進んでいけるのかを考えない。

そうしてまた同じような失敗を繰り返す準備を整えてしまう。「こうすれば、今度こそはうまくいきますよ」とささやく書籍たちによって。それこそ「Re:ゼロから始める自己啓発」である。本当にゼロから始まってしまっている。永遠に前に進まないセーブポイント。

だからこそ、本書は大全であると共に、鈍器である必要があった。あるいは、大全であることは鈍器であることを要求した。そんな風に言えるかもしれない。

本書は事典である

本書は事典である。英語では「Self-study ENCYCLOPEDIA」となっている。お気付きだろうか。

著者の前二冊はそれぞれ「THE IDEA TOOL DICTIONARY」「THE PROBLEM SOLVING SKILLS DICTIONARY」となっていた。共にDICTIONARY(辞書)なのである。一方本書はENCYCLOPEDIA(事典)となっている。

単に表記の違いなだけではない。読みごたえの点ではっきりと差異を感じる。全二冊はたしかに辞書的で、それぞれの技法を紹介&解説している感じだった。言い換えれば、そこには創発的な「一冊の本が語るもの」はあまりなかった。

一方本書は、まず著者の語りが前面に来ているし、個々の技法の解説でありながらも、それぞれの項目にリンクが発生している。その上、個々の技法の解説のスタイルも、技法によって違いがある。

前二冊は、本全体のフォーマットが整えられることが意識されていたように思うが、本書は対話編あり、技法紹介あり、著者の語りあり、ショートストーリーありと縦横無尽である。読みごたえがあるだけでなく、緩急がついていて読みやすい感じが強い。著者の引き出しから、使えるものがどんどん取り出されているような感触を受ける。

本書も前二冊も「どこからでも読める」形にはなっているが、前二冊がそれぞれ独立していた印象が強いのに対して、本書では独立はしつつも他の情報とのつながりが強められている。この違いはかなり大きい。

本書は旗印である

加えて本書は旗印でもある。独学者を集める旗印だ。

オンラインロールプレイングゲームを考えてみよう。そこで目立つのは当然巨大なグループやギルドである。ソロで活動している人間は、ほとんど可視化されない。その規模がどれだけ大きくても、個々はソロで活動しているのだから(それが定義だった)、私たちの目には入ってこず、別の大きなものが視野を占有する。

しかし、本書の登場で明らかになったのは、この本を待ち望んでいた人たちの存外な多さであった。明らかな実感としてタイムラインを見ていれば(そして著者のアカウントをフォローしていれば)感じられるが、出版日からの増刷の勢いからでも推量はできる。

独学者は、群れないからこそ独学者である。オンラインサロンのようなハッピーでヤッピーな人たちのようには目立たない。

しかし、図書館ですれ違うあの人が、書店で見かけるあの人が、喫茶店で読書にいそしむあの人が、実は独学者なのかもしれない。隣に座り、「何を勉強されているんですか」と話しかけたら、とても面白いお話を聞かせてくれるのかもしれない(私たちは蘊蓄が大好きである)。

でも、そんな出会いは起こらない。なんといっても独学者はソロなのだから。もっと言えば、シャイなのだから。世を忍ぶ姿を借りて日常を過ごし、思索と読書の旅に出る。それが独学者である。何もなければ、決して交わり合うことのない、異なったレイヤー上の点。それが独学者である。

本書はそうした人たちを、「独学者」と呼んだ。あるいは呼びかけた。

自己認識として、独学者ではなかったのかもしれない。知的生活者や情報生産者、あるいはもっとぜんぜん別の名前だってありうるだろう。そうしたバラバラ性(≒多様性)が担保されているのも、ソロ活動の気楽な点である。しかし、そうであるがゆえに、私たちは「仲間」を知らないでいる。

いや、「仲間」はさすがに言葉が強すぎるだろう。せいぜい「同じカテゴリーに属する人たち」くらいが妥当だ。

しかし、これまではそのカテゴリーがなかったのだ。知的生活/生産者は、「知的」という言葉があまりにも重いし、在野研究者は「研究」という言葉に引け目を感じてしまう。実態としてやっていることが重なっていても、そのカテゴリー内にあると自認するのは難しかった。

では、独学ならどうか。そう言われてみれば、自分がやっていることは独学と言えるかもしれない。本書の呼びかけに触れた人は、そんな風に感じたのではないか。

もちろんだからといって、独学者が共学者になるわけではない。ソロ活動はあくまでソロ活動である。しかし、そこに「メインは」という留保はつく。

たまに集まって読書会をやってみるのもいい。勉強の進捗を報告し合ってもいい。面白い本を教え合い、面白い講座を教え合い、ときに自分で学んだことを誰かに教えてみてもいい。

私たちはつながりえる。独立はしつつも他の人々とのつながりを持つことができる。

本書で紹介されるあらゆる技能が「Webに書いてた」としても(そんなことはないと思うが)、本書がうちたてたこの旗印は、他に代替できるものではないだろう。

つながりに向けて

情報がさまざまにつながっているように、私たちもまたさまざまにつながっている。

巨人の肩に乗ることは、いずれのときか自分もまたその巨人の一部になることを意味する。人と人がつながり、情報と情報がつながる。そして、次なる世代への礎となる。

私たちは、自分の知的好奇心に促されるままに旅に出て、いつしかその旅に新しい目的が加わる。最初の目的が失われるわけではない。一つのものが二つ以上の意味を持つだけだ。

たぶんそれは幸福なことなのだと思う。社会的成功とどれほど縁遠いものだとしても。

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