5-創作文

Rashita’s Christmas Story 12

 クリスマスは書き入れどきだった。私はサンタの衣装に着替えて、さっそく繁華街へと自転車を向かわせた。
 いつもはファッション性皆無のガチなヘルメットをかぶっているが、今日だけは安全性に目をつぶってサンタの帽子をかぶる。安全性よりも、特別料金が大切だ。
 この時期、つまりクリスマス周りはローバーイーツも仕事が増える。ケーキやチキンの自宅消費が増えるからだ。そこに目をつけたローバーさんは、ディーパーソンに特別料金を振る舞うことにした。サンタのコスチュームを着て配達すると、いつもの配達手数料に上乗せされるのだ。
 しかも、そのためにコスチューム代も後から経費として請求できる。支給される金額は一律なので、手先の器用な人は自分でコスチュームを作って経費を浮かせている人もみたいだけど、私はゲンキホーテで一揃い買ってきた。それでも十分経費からはおつりが出る。さぞかしローバーさんはこの時期儲かっているのだろう。

 繁華街はやはり混んでいた。気持ちだけ距離を開けて歩く人たちが、いつも以上に町に溢れている。マスクももう見慣れたもので、サンタのもじゃもじゃの白ヒゲが描かれたマスクをつけている人もちらほら見かける。陽気さはいつだってポケットの置くから取り出せるものだ。
 私はアプリを立ち上げ、一番近くのボスバーガーへと向かった。サンタの帽子は自転車をこぐたびに少し揺れていた。

 店内はまったくにぎわっていなかったが、レジ前が大混雑していた。チキン用のブースが臨時で設けられているが、それでも捌き切れていない。私と同じようなサンタコスをしたディーパーソンも列を作って荷を待っている。どうせ別の場所にいっても同じようなものだろうと睨んで、私もその列に並ぶことにした。
 ひとり、また一人とお客さんがチキンを受け取っていく。たいていは女性で中には男性もいるが、老人はまったく見かけない。出歩くことがほとんど社会的な悪になりつつある老人は、もはや行列を作ることが許されていない。だからこそ、私たちの商売が儲かるのだからありがたいと言うべきなのだろうか。
 私の二つ前のディーパーソンまで順番が回ってきた。皆小口の注文は避けたいようで荷物一杯なのだが(もちろん単価が高いほうが嬉しいのだ)、おかげで一つひとつの注文をこなすのに時間がかかっている。どれだけ配送ルートを効率化しようとも、皆が同じ場所で注文するならばボトルネックは残ることになる。本当に効率化をするならば、セントラルキッチを作りそこから配送ルートを組み立てて……、と考えていたら私の順番がやってきた。荷を確認して、注文番号を参照する。うん、問題ない。さっそく私は本日一つ目の配達に向かうことにした。

 サンタの格好は、安全性を別にすれば心地よかった。なんといってもふわふわもこもこで暖かい。ゲンキでケチって安いの買わなくてよかった。うまくいけば来年もこの服が使えるだろう。でも、来年も同じようにディーパーソンをしているのだろうか。そんなことはぜんぜんわからないので、私は代わりにアプリの道案内に従って進んでいく。音声の案内は、ワイヤレスイヤホンから直に耳に届くので聞き逃すことはない。苦もなく一つ目の配達を終わらせ(もちろん挨拶はメリークリスマスである)、私はもう一度さっきのボスバーガーに戻ることにした。

 同じことを二三度繰り返した後、次なる注文をピックしようとしたら、馴染みの中華料理店からサインが出ていることに気がついた。中華料理? 皆同じような疑問を持っているのか、それともその中華料理は特別配送料の対象店舗ではないからなのか、近隣のディーパーソンからは無視されているらしい。おかげで配達手数料がかなり良い。まあたしかにサンタの格好をしてラーメンとかチャーハンを届けるのはちょっと気まずい気はするが、時間当りの効率はとても良いのだ。これを見逃す手はない。私はこういうボーナスステージ的な、あるいは脇の小道に落ちている宝箱的なものがめっぽう好きなのだ。店舗もここから五分くらいなのですぐに終わらせられるだろう。
 私はアプリ上で受領の処理を済まし、そのままの格好で中華料理店へと向かった。

 お店は閑散としていた。そりゃそうだろう。何もクリスマスイブに大衆的な中華料理屋にいくことはない。「いや〜締めようかと思ってたんだけど、やっぱりお昼はいつものお客さんが来てくれるしね〜」とレジを担当しているおばさんが話してくれた。厨房ではおじさんが何かを炒めている音がする。このお店はよく配達をしているので、おばさんとは顔なじみなのである。「最近たいへんですよね」「まあ、楽だったことは一度もないけどね。でも今回はやっぱり厳しいね。値段を上げたり、料理の量を減らすことにも限界があるし」「私も一日の配達量って増やせないのでどうしても儲けに上限があるんですよね」「あの人にも、暇なときに配達させようかしら」「ご主人は立派な料理の腕を持っているじゃありませんか」「技術だけで食っていけたらいいだけどね」
 最後は冗談めかしていたが、そうでもないとやってられないような気持ちだったのかもしれない。私も配達の効率化は毎日考えているけども、やっぱり限界は感じていて、でもどうすればいいのかは具体的にはわからなかった。アプリが配達先の住所を示していた。

 配達先は公営の団地だった。配達先としては少し珍しい。似たような建物がいっぱいあるので注意して目的地を探す。幸いアプリはめちゃくちゃ細かい精度で地図を出してくれるので、あまり迷わずに済んだ。インターホンを鳴らす前に少しだけ私は考えた。はたして「メリークリスマス」と挨拶すべきだろうか。この中華の食べ物を掲げて。挨拶したらしたで変な気もするし、でもサンタの格好をして挨拶をしないのも変な気がする。ええいと思い、私はインターホンを押し、「はい?」と返ってきたところで「ローバーイーツです。お届けに上がりました」とだけ答えた。まだ早い。すべては出てきた人次第だ。
 その声は、なんとなく幼い印象だったが、やっぱり子どもだった。中学生くらいだろうか。私は満面の笑みを浮かべて「メリークリスマス!」と言ってみた。ウケるに違いないという目算があったことはたしかだが、「あ、はい、どうも」と軽やかにスルーされてしまった。あれだろうか、宗教上の理由とかで、クリスマス文化に触れないまま成長してしまった子どもだろうか。玄関の靴の状況からすると、家の中にはこの子しかいないようだった。
 私は荷を渡し、本当はやってはいけないのだけども「クリスマスなのに中華なの?」と聞いてしまった。詰めてはいけないとわかっていてもそれをどうしても止めることができないのだ。「ええ。別になんでもいいんですけど、今日だったら中華は混まないかなって」「たしかにね」
 私は笑ってしまった。彼は彼なりの哲学を持って中華を頼んでいるのだ。別にクリスマスにチキンを食べなくても、この社会は回っているし、ちっとも不幸じゃない。「今日はゲームの大規模なイベントがあって、できるだけ手早くご飯済ませたかったんで」「だから手早い中華を」「はい。合理的でしょ」「たいへんよくできましたのハンコを押したくなるくらいにね」
 二人してフフっと笑った後、私は「ありがとうございました」と部屋を出た。もしかしたら、彼はこれからも中華料理をオーダーしてくれるかもしれないけど、それを私が配達するとは限らない。それが少しだけ寂しかった。
 私はアプリを立ち上げて、配達を待っているたくさんのお店の中から特別配送料の対象になっていないお店を探し、その中の一つを選んだ。そして自転車をこぎ始めた。サンタの帽子は先ほどよりもリズムよく揺れていた。

メリークリスマス!

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