書評 編集者の仕事(柴田光滋)

サブタイトルの「本の魂は細部に宿る」に惹かれて購入し、そのまま一気に読み上げてしまった。あまりにも本を読むことが普通になっているので「読みやすさ」の視点から本を考えたことはあまりなかった。

しかし、最近の電子書籍ブームの中で自分でもレイアウト組(版組)をちょっとやってみたところ、案外というか予想以上に難しいということが分かった。ブログでも見た目というか体裁はかなり重要な要素ではあるが、本にも本ならではの難しさがある。そしてその本作りの難しさがそのまま「本の魅力」につながっているのだろう。

編集者の仕事―本の魂は細部に宿る (新潮新書 371)
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著者は柴田光滋氏。職業は編集者とある。著者が編集者、あるいは編集者が著者であるというのはなかなか変わった感覚がある。自分の弁護を自分でする弁護士のような印象だ。読んでみるとたしかに読みやすい。細部まで気を遣ってある本はこんなに読みやすいんだ、ということを改めて感じた。

読書体験をデザインする

元々本好きな私は、活字であれば何でも好んで読む、という習性があるのでそういった観点から本というものを真剣に考えてこなかった。しかし、それは意識してみると重要な要素であることに気がつかされる。紙の色一つとっても、読みやすさに影響してくるのだ。

ここで、ふとある本の事を思い出した。

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「デザイン思考」だ。デザイン思考は人間中心のアプローチだ。言い方を変えれば「経験をデザインする」という事だ。本という物を、単に情報を載せた紙として扱うのではなく、その本を取った人がどのような「読書体験」をするのか、という視点から考えて本を作る。それがデザイン思考であり、また編集者の仕事と言えるのだろう。

おそらく、そういったこだわりある本の存在があるからこそ、私は本を断裁してまでスキャンをしたいとは考えないのだろう。確かにそこに書かれてある情報はデジタル化できるかもしれない。しかし、それで失われてしまうものも確実に存在するのだ。どれほど高性能なスキャナでも、編集者のこだわりまでは写し取ることはできない。

「読書する」という体験をもとに作られた本のこだわりは、それが細分化され、質感を失ったところで消えて無くなる。無論、スキャンされた画像を見れば「あぁこだわって作ってあるな」という事は分かるかも知れない。でも、そんなことにあんまり意味はない。体験を元にデザインされたモノの価値というのは体験の中にしか存在しない。

アナログ本は生き残る

こう考えてみると、アナログの「本」はすぐに絶滅したりはしないだろう。もちろん、そういった細部へのこだわりを持たず、単に情報を紙の上に載せただけの本は電子書籍に取って代わられる。

しかし「紙」の良さを踏まえて作られた本の魅力はいささかも減退しない。これからの紙の本はそういったこだわりを持つ物だけが生き残れる世界になっていくのだろう。それは別に悲しいことでもなんでもない。世の中には本の形をしていても、「別に本でなくてもいいじゃん」という感想を抱きたくなる物がたくさんある。そういうのが無くなるのは、ほどよいエコだ。

差別化できる電子書籍の作り方

もう一点考えたいのが、電子書籍についてだ。それがあくまで「本」をモチーフにして「出版」される以上、送り手が意識すべき事は内容だけではない。もちろん内容だけで差別化はできるのかもしれないが、いつまでそれを続けていけるのかはわからない。

むしろ、「デザイン思考」を用いて「どうすれば読者が読みやすい体裁になるか」というこだわりを持つことが重要な気がしている。それは今までの本作りの経験が役立つこともあるだろう。そしてまったく別のアプローチも必要になってくるはずだ。

デバイスを意識した文字数、背景の色や画像、フォントの種類やポイント、余白や次のページまでの間、といった総合的なアプローチをすることができれば、雑多生まれて来るであろう数々の電子書籍群から抜け出ることができるはずだ。

単に良い内容が書いてある、というだけでなく読者が本の存在を知り、購入し、実際に読み、その後SNSに感想を流す、という一連の流れを意識したプラットフォームを作ることができれば業界内で大きなアドバンテージを取れることだろう。それは当然読者にとっても有意義な事である。

さいごに

この本の帯の裏には「電子書籍にはない職人技に迫る」と書かれている。確かに本の出版で用いられている技は電子書籍には必要ないかも知れない。しかし、電子書籍には電子書籍の職人技が存在するはずだ。紙にも判型があるように、電子書籍でもデバイスが存在する。あるいはビュアー。これからはそういったものを考慮して「本作り」をしていく必要がある。

本の魂は細部に宿る、これは電子書籍の時代においても同様に言えることなのではないだろうか。

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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