物書き生活と道具箱

モレスキンが高く感じられる理由とその対策

@mehoriさんのちょっとした”問題提起”があったので、それについて考えてみる。

私はモレスキン手帳もノートも「今のところ」は使っていません。手帳に関しては長年「ほぼ日手帳」を使っていますし、持ち歩きのメモ帳としては「re-collection poket」を愛用しています。

例えば、ノートやメモ帳としてモレスキンを見た場合、私の中ではそれは「高い買い物」になってしまいます。この高い、というのは質に対して割高、ということではありません。だいたい使った事のない物に対して「質に対して割高」とか「割安」などと判断するのは滑稽です。

しかも、その判断には個人的な価値観が入ってきます。「書く」という行為が好きでない人は書き心地などの要素は質の判断材料に入れる事はないでしょう。

私自身の考えは、2000円近く支払うならば、普通のノートやメモ帳を買ってその差額で本を一冊でも多く買いたい、ということです。これはモレスキンだけが特別ではなくて、私は衣類などにも同様の考えでアプローチしています。

値段は比較

多分ですが、一般的に言われている「モレスキンが高い」というイメージは「手帳」としてのモレスキンではなく「ノートやメモ帳」としてのモレスキンが高い、というイメージなのではないでしょうか。

一年間使える手帳として見た場合、モレスキンの値段は高すぎるということはありません。同じような手帳で遥かに高価なものも存在します。しかし、小型のノートやメモ帳ならばどうでしょうか。コクヨ製品と比べてみれば、モレスキンはかなり高価な存在です。

人間は「価格」を絶対的に評価する能力はありません。基本的にはそれは「比較」の枠組みで検討されるものなのです。

ビール販売の実験

「プライスレス」という行動経済学の本の中で紹介されている実験を紹介しましょう。

テーマは「ビール」です。

まず2種類のビールを準備します。1ドル80セントの特価ビール(A)と2ドル60セントの高級ビール(B)の二種類のビールを棚に並べておきます。仮に最高の品質を100とすると、Aは50、Bは70という判定がされています。

この場合、二対一の割合でBのビールの方が売れました.

次に、もう一種類ビールの数を増やします。Cは1ドル60セントで品質は40です。このCを加えてもCが売れるということは無かったのですが、先ほどの二つの選択に変化がでます。Aのビールの売上が上がったのです。

多分選択肢が二つの場合は、見栄的な要素で「良い物を買わなくちゃ」という心理が働いてBの高級ビールが売れたのでしょうが、Cという激安品が出た事でAのビールでも「そこそこの選択をした」という心理的な結果を得る事(選択の正当化)ができるようになったからではないと書かれています。

さらに選択肢を加えます。Dは3ドル40セントと他に比べて非常に高く、品質はBをやや上回る75という評価です。さて、この場合どのような売れ行きを見せるでしょうか。

最高級であるDは購入者の10%に選択され、残り90%がBの高価なビールを選択した、という結果が書かれています。この場合はAもCもまったく売れなかったようです。

これは非常に面白い人間の性質を指し示しています。人間の価格と価値の考え方は、こうした比較によって変わるだけでなく、購入行動にまで差が生まれてしまう、ということです。

実際の経済ではこのように単純にモデル化はできないかもしれません。しかし、物の価値と価格の設定は非常に曖昧なもの、ということは知っておいた方がよいでしょう。

モレスキンをさらに売るためには

さて、モレスキンをノートのジャンルとして考えた場合、どのような状況でしょうか。一般的にモレスキンの存在を知っている人であれば、多分A,B,Cの三つの選択肢がある状況に近いのではないかと思います。

100円均一で販売されているノート、国内有名メーカー(コクヨなど)のノート、そしてモレスキン。

この比較の場合、多くの売上を獲得するのは、真ん中のノートです。そして多く売れるが故に一般的な消費者の価格の目安がこのラインになります。「ノートというのは200円ぐらいで買えるものだ」という認識ができれば、相対的にモレスキンは高い(高級)という認識も付随して生まれる事になります。

このような状況でモレスキンの販売を促進させるにはどうすればよいのか、をまったく部外者なりに考えてみます。

販売戦略 ストレート編

ストレートに考えた場合、先ほどの実験結果を応用すれば簡単な施策が思いつきます。

質はさほど変わらないけども、すごく高い商品を発売する

という戦略です。これはまずほとんど売れないので大量生産する必要はありません。しかし、その物と値段が人々の目に触れる必要があります。それらの値段が目に触れる事によって、人々の「値段」の目安を揺さぶるわけです(この場合は高い方に)。

一冊1万円のノートというものが売り場にあれば、2000円を割り込むノートは「まだ現実的なノート」として認識されます。

販売戦略 河岸を変える

もう一つが、「ノートの枠組み」とは別の場所に移動するという方法。多くの人が「ノート」として認識してしまえば、先ほどの「価格認識競争」に巻き込まれてします。であれば、その土俵からおりて別のところで戦うことも方向性としてはありでしょう。もちろん、これは先ほどの戦略に比べると大変難しいものです。

名前は思いつきませんが「高級ノート」という市場を開拓してもよいでしょう。あるいは別の道具の市場に入り込むような事もできるはずです。

前者の場合は、モレスキン以外の同じような価格帯の「高級ノート」ブランドがある程度日本市場に並ぶ必要があります。自助努力だけではたどり着けないかもしれません。

経営的には問題がありますが、もう少し商品の幅を広げて「モレスキン専門店」がいくつか生まれるようになれば、ジャンルとしてモレスキンが認知され、その価格に比較される可能性は低くなります。

後者の場合は、文房具店などには展開しない、という方法です。例えば高級アクセサリー専門店に置いてもらう、というようなアプローチが考えられると思います。要するにノートの位置づけから「身につける」アクセサリー的転換をする、というもの。そういった枠組みの中では「モレスキンって安いね」というような言葉が飛び交うかもしれません。

まとめ

人の値段感覚のお話から、モレスキンの販売展開のアイデアまで、まとまりもなく書いてみました。何かを高い/安いと考える人間の心理というのは複雑で興味深いものです。

皆さんも自分が好きな物、気に入っている物をどうやったらもっと売れるようになるのか考えてみてはいかがでしょうか。

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